番外1-4 ゾフィア=クレンゲルの独白 その4
最近、寒くて手の動きが悪く、タイプミスがやたら多い……
最後のゴブリンは改めてリリィに任せ、ようやくゴブリンの掃討が完了した。
さすがにこの数の後始末をリリィ1人に任せるのは、負担と時間がかかりすぎる。
「手分けして、まずはそれぞれ自分が狩った奴から切り取っていこう。リリィは自分の分が終われば、私たちの分も手伝ってくれればいい」
そう告げて、私も自分で斬ったゴブリンのところへ行く。
剥ぎ取り用のナイフを取り出し、次々と死体の耳を切り取っていった。
私にとってはもはや手慣れた作業だ。リリィのように心動かすこともない。
リリィには後でこっちを手伝うようにも言ったが、実際は手早く終えて私はさらに新手が来ないよう警戒に移った方がいいだろう。
そんな風に考えながら最後の1匹の耳にナイフを当てたところで、不意にすぐ横の茂みが鳴る。
「しまッ……!」
いつから隠れていたのか、そこにいたのは生き残りのゴブリン。
気づいた時にはすでに遅く、手にした斧を鎧の上から叩きつけられた。
「ぐッ……」
鎧が受け止めたおかげで骨まではいっていないが、衝撃で息が詰まる。
まずい。
この状態で、追い討ちをくらえば――
「<風刃>!」
次の瞬間、ゴブリンの首が飛ぶ。
再び斧が私の上に降ってくることはなく、首を失った胴体はゆっくり地面に倒れていった。
どうやら、タクローの魔法で助けられたらしい。
「……ふぅ。ありがとう、助かったよ」
危ないところだった。
タクローの助けがなければ、ろくに防御もできない状態で痛撃をくらってしまっていた。当たり所が悪ければ、万が一のことすらあったかもしれない。
本当に助かった。
「だ、大丈夫ですか?」
私を心配して、慌ててリリィも駆け寄ってきた。
さっきまでの戦闘で心身ともにかなりの疲労があるだろうに、治癒魔法まで使おうとしてくれる。
さすがにそこまでしてもらうほどではないので、気持ちだけはありがたく受け取って断った。
「それにしても、思わぬ形で悪い例を見せることになってしまった。こんな風に、戦闘が終わったと安心して油断すると、思いがけず危機に陥ることもある。リリィはさっきの私みたいなミスはしないようにしてくれ」
自戒と自嘲が入り混じった言葉を告げて作業を再開すると、その後はさすがに何も起こることなく完了した。
それにしても、戦闘中に別の集団が合流したことといい、さっきの奇襲といい何度も数を減らされ続けたゴブリンどもも学習して行動パターンが変わってきつつあるのかもしれない。
報告の際には一応それも言っておいた方がいいだろう。
◇
「戦闘中にもかなり魔法を使っていたはずだが。帰りも加速魔法を使って平気だったのか?」
帰りもタクローの魔法のおかげで、日が沈む前に街に帰り着くことができた。
そのことをありがたく思いつつも、さすがに負担が大きいのではと訊いてみたが、
「……疲れがないわけじゃない。だが、これくらいなら一晩寝れば問題ない」
フードで表情がわからないものの、そんな言葉が返ってくる。
本当に、たいした魔法使いだ。
「タクローには最後助けられたし、なかなか凄い魔法使いだ。よければ、また今度キミたちと仕事をしたいものだ。今度は監督役ではなく、対等な仲間として」
このまま縁が切れてしまうのが惜しくなって、思わず課題の途中から考えていたことが口をついて出てしまった。
「まあ。機会があれば、な」
タクローの口から返ってきた言葉に、思わず頬が緩む。
もちろん、タクローに対して特別な感情が感情が芽生えたわけではない。
ちょっと危ないところを助けてもらったくらいでコロッと落ちるほど、私は単純ではない。
だいたい、フードで表情が隠れていてもなお、見ているだけでタクローがリリィを特別に思っていることはわかる。そんなところに割り込もうとは、私には到底思えない。
もっと実利的な面を考えても、タクローたちと組むことは移動に戦闘にとメリットが大きい。
ギルドの利用には不慣れなようなので、いつまでの縁になるかはわからないがレオンブルグにいる間は私がそのコツなどを教えていけば、さっき助けられた礼にもなるし、互いに有益だろう。
男女云々は置いておいて、友人や仲間という形であれば、できれば親しくなりたいというのも本音ではある。
ギルドへの報告を終えると一旦解散となったが、私は心の中で明日からさっそくギルドで2人を探そうと心に決めた。
番外編終了。
ようやく次から本編再開です。




