番外1-2 ゾフィア=クレンゲルの独白 その2
リリィの装備が整うのを待ち、私が先頭に立って山へと入って行く。
今日と同じ仕事で来たこともあるし、ゴブリンがあまり増えすぎないよう間引く時にも参加している。
どの辺りに行けばゴブリンと遭遇できるかは、経験でだいたいわかっていた。
「……いた。あそこだ」
予想の通り、10分もしないうちに最初のゴブリンを見つける。
数は4匹。まだ向こうはこちらに気づいていないため、打ち合わせの通りに私が奥に回り込んで奇襲することを小声で後ろに伝えた。
大きな音を立ててゴブリンどもに気づかれないよう、慎重に茂みの陰を身を低くして進む。
大回りで先頭のゴブリンの前に回り込み、剣を走らせながら一気に茂みから飛び出す。
「はあぁッ!」
そのまま、驚くゴブリンの首を振り抜いた剣で斬り飛ばした。
「グ、グギャッ!?」
残りのゴブリンは、突然仲間を私に殺されたことで、驚き混乱している。
この動揺が収まらないうちに、今度は反対側からタクローが攻撃する手筈だ。
「<風刃>!」
戦闘の方の腕前はどうかと思えば、すかさず風の魔法が飛んで来る。風の刃が無防備な背後からゴブリンを斬り裂き、1匹は即死、もう1匹も戦闘不能となった。
場合によっては私がもう1匹削るつもりだったが、こちらがこれ以上何かするまでもなくあっさりと残るゴブリンは1匹となる。
「おぉ、さすがだ! よし、リリィ。今からはキミの出番だ」
予想以上の手際のよさに感心しつつ、いよいよ本番とリリィを呼ぶ。
「は、はいッ!」
槍を構えて飛び出してはきたものの、緊張して身体が硬くなってしまっているようだ。
案の定、最初の一撃を外してしまい、うかつに間合いを詰めてしまったことで反撃を受ける。
「あー。予想はしてたけれど、やっぱりリリィはそっち側かぁ」
時々いるのだ。
荒事に慣れていないと、獣型の魔物は倒せても、人型の魔物が相手だと変な躊躇が生じてしまうタイプが。
リリィはいかにもその辺の町娘といった感じで、見るからに荒事の経験はなさそうだったので何の意外もない。
「……待った」
意外だったのは、ゴブリンの反撃によりリリィが傷ついたのを見たタクローが、すぐさま魔法で割って入ろうとしたことだ。
荒療治ではあるものの、そうして躊躇する余裕がなくなるまで追い込ませるのが、一番早い。
そのためタクローを制止したが、リリィが怪我するのを見たタクローは、フードで顔が隠れていても分かるほどに本気で焦っていた。
自分が表に出ないために無理にリリィに身代わりを押し付けているのかと思っていたが、そうではないのか?
ひょっとすると、リリィの方が積極的に言い出しているのかもしれない。そう思うほどにタクローはリリィの身を案じているようだった。
「……リリィを心配するのはいいけど、他の敵がここに近づいて来ないか警戒するのも忘れないように。見落としたりすれば、それこそリリィを危険に晒すのだから」
だが、ぎりぎりまでは黙って見守ることこそ、リリィのためだ。それまでは手を出さぬよう再度釘を刺してから、私自身も場所を移動して別のゴブリンを警戒した。
◇
リリィがなんとかゴブリンを殺すことに成功したのは、それから間もなくのこと。
最後まで踏ん切りがつかないまま、私かタクローが助けねばならないという最悪の事態は避けられたものの、これはもう少し厳しくしておいた方がいい。
戦闘が終わったことに安堵して地面に座り込んだまま傷を癒すリリィに、私は倒したゴブリンの後処理を頼むことにした。
ゴブリンの耳を削いで集めるよう指示すると、やはりこれも予想通り、戦闘中以上にリリィの顔は青ざめる。
そして、その顔色を見たタクローは独自に動こうとしたので、先んじて再びそれを止めておく。
これは相当、彼女を大切に思っているようだが、リリィも冒険者となる以上は過保護はかえってためにならない。
これでダメなようなら、冒険者の適性はないとあきらめるべきだ。
「ありがとう。ご苦労様」
現に、時間もかかったし、かなり顔色は悪くなってはいるが、リリィはなんとか指示通りに耳を集めることができた。
だが、さすがにこのまま課題を次に進めることはできない。ひとまずはちゃんと休むべきだろう。
「では次の戦闘……の前に、少し休憩にしようか」
ここからすぐの場所に、聖木で囲った安全地帯がある。
私は2人を連れてそこへ案内した。
中編。予想通りその3まで続きます。