番外1-1 ゾフィア=クレンゲルの独白
すっかり遅くなった上に例によって分割形式になってしまいましたが、番外編。
ゴブリン退治のゾフィア視点ダイジェストです。
「ゾフィア=クレンゲルさん。今よろしいですか?」
声をかけてきたのは、顔見知りのギルドの受付係の男だった。
この男が私に用がある時というのは決まっている。
「ゴブリン討伐の監督役?」
一応、確認のために訊いてみると、予想通り男は首を縦に振った。
ただ、頷くだけでは終わらずに言葉が続く。
「はい。ですが、今回は少しだけ特別な事情がありまして……」
説明を受けた私は、そのまま男に案内されて受付へと向かった。
そこで待っていたのは2人連れ。まだ十代の少女と、全身をすっぽりフード付きのローブで覆い隠した大柄な(多分)男。
私を監督役として呼んだのだから、課題を受けるのは当然ながら少女の方で、もう1人が説明にあった訳ありの少女の連れなのだろう。
男の方が自分が表に出ないために、少女を代わりに登録させているといったところか。よくあるとまでは言わないが、たまにはある話だ。
職員の紹介を受けて、軽く会釈。
その後、まずは出発前に打ち合わせの必要があるので、奥にある小部屋へ行こうと2人を誘ったのだが、
「すみません。連れの彼はギルド員ではないので、奥へは入れないんです」
と少女に断られてしまった。
「あ。そういえば、今回はそんな話だったか」
ついいつも臨時パーティを組む時の習慣で動いてしまったが、部外者はロビーより奥へは入れないんだった。
「じゃあ、あっちの隅のテーブルへ行こう」
打ち合わせ自体は課題の最中に事故を起こさないためには重要だが、特に秘密性の高いことを話すのでもない。あえて個室にこだわる必要はなかった。
それから時間をかけて、ゴブリン討伐の手順を話し合う。
少女がリリィ、ローブの男がタクローで、リリィは槍、タクローは風属性の魔法を主に使うらしい。
タクローが魔法を得意とするというのは、立派な体格から意外と考えるべきか、背丈だけでなく肉の厚みも相当あるのがローブの上からでも見て取れることからやはりと思うべきか。
それにしても、余計な詮索をしようという気はないが、このタクローという男は何だ。登録だけでなく、戦闘の場面でもリリィを前に立たせているのか。
好感の持てる相手ではないが、好き嫌いで仕事をするつもりはない。むしろ、なおさらしっかりと私がリリィのことを見ておかないといけないという思いを強くした。
◇
念入りな打ち合わせを終えた後、一度2人と分かれて借りている部屋へ戻る。
今日は打ち合わせだけのつもりだったが、タクローの魔法で移動時間が大幅に短縮できるということなので、急遽この後ゴブリン退治に向かうことに決めたためだ。
もっとも、さっき会ったばかりの奴の言うことを鵜呑みにはしていない。
「これでよし、と」
部屋へ一度戻ったのは、討伐用の装備を整えるためというより、行程が予定通りにいかずに遅くなった場合の備えだ。
少々荷物が増えるが、このくらいなら問題ない。2つの袋に必要なものを纏めて再び部屋を出る。
途中、屋台に売っているもので軽く腹を満たして2人との待ち合わせ場所の北門に着く。
少し早く着きすぎたようで、相手の姿はまだなかった。
「あれ? すみません、もう来られてたんですか?」
だが、1分ほど経つか経たないかで2人の方もやって来た。どうやら時間や約束を守らないような相手ではないようだ。
ただ、リリィは槍と装備が入った袋を持ってはいるが、タクローの方は先ほどと変わらずローブで顔や身体を隠したままだ。
「揃ったところで出発したいが、私はどうすればいい?」
男の冒険者と組むと、やたら不必要な身体的接触が増えることがよくある。だから私は極力1人か女性同士のパーティで活動しているのだが、今回はそうもいかない。
だがもし、タクローが変なことをしてくれば、言った通りただではおかない。
「……ッ」
タクローの手が腰に回され、思わず驚いて身体が硬くなってしまう。
続いて、
「<風加速>」
タクローの言葉と共に周りが風に覆われ、想像以上の速度で街道へと飛び出した。
◇
「なるほど! これは、たしかに速い。普段からこれで移動しているなら、今日中に出発するつもりだったのも当然だ」
動き出した当初は想像以上の速さに驚いたが、最初の衝撃が収まると今度は興奮が襲ってきた。
以前に風の魔法を操る他の魔法使いと組んだこともあったが、その時にはメンバーが多かったせいもあったのかこんな魔法は使う素振りすらなかった。
これだけの速度で移動できるなら、便利なんてものではない。
冒険者活動においては、移動にかかる時間とそれにまつわる準備のコストは馬鹿にならないものだが、それが大幅に圧縮できる。
「……しかし、本当に魔力は大丈夫なのか? 私が加わっている分、普段よりも消耗は大きくなるのでは?」
問題があるとすればそこだったが、それもタクローは否定した。
思わず彼の方をまじまじと見そうになったが、魔力の消耗より私が身じろぎすることで腕から落ちる危険の方が大きいと注意されてしまう。
「そ、そうか。すまない」
この速度で振り落とされることになれば、怪我は免れない。下手をすれば骨の1本くらいは簡単に折れてしまうだろう。
慌てて詫びると、私は言われた通りに正面に向き直った。
その後、気まずくなりかけた雰囲気を、反対側のリリィが話すくらいは平気だと和らげてくれた。
割と他愛ないことを話しながら前を見ていると、やがて目印となる看板が目に入る。
「……あ。あの前に見える看板、あそこで止まって」
私の指示で、タクローは移動速度を落としていって、看板のすぐ手前で停止した。
森へ入る前に、リリィは持ってきた装備を身に着けていく。その間、私はタクローの様子を窺ってみた。
顔がフードで隠れているので分かりにくいが、たしかに動きを見る限りでは魔力の消耗による疲労の影響は見受けられなかった。
よほど魔力量が多いか、あるいは効率的に魔力を使えるのか。いずれにしろかなりの才能だ。
ローブとフードで正体を隠し、ギルドへの登録もしないのは、ひょっとするとその才能を周りにあまり知られたくないからではないだろうか。
少し、この男に興味が湧いてきた。
1人称形式の練習……のつもりが、難航して更新が随分遅くなってしまいました。
あと1話か2話ほどでゾフィア側を描いてから、前回までの続きとなります。




