【悲報】「婚約破棄だ!」に「承知いたしました!」と即答したら、長文の断罪スピーチを用意していた王子がスカされて発狂した件
「エリザベート・フォン・ヴァルハイト! 身勝手で嫉妬深いお前との婚約を、今この場をもって破棄する!」
華やかな夜会会場の真ん中で第一王子ジークハルト様が朗々と声を張り上げた。
その隣には、男爵令嬢マリアの姿がある。
周囲の貴族たちが息をのむ。
「承知いたしました! では私はこれで失礼いたします」
「え?」
いうが否や私は迷いのない足取りで、会場の出口へ向かって歩き出す。
(よかった。これでジークハルト様のわがままに振り回されることもなくなるのね)
心の中で勝利のファンファーレを鳴らしながら歩を進めていると、背後からドタバタとした見苦しい足音が追いかけてきた。
「ま、待て! 待て待て待て! 早い! 承諾が早すぎるだろうエリザベート!!」
「まだ何か? 私は淑女教育を受けた身。 婚約を解消されたのならいさぎよく退くのが務めで御座います」
「そうではない! そうではないのだエリザベート! 理由だ! 理由を聞くのだ!」
ジークハルト様は額に汗を浮かべながら、ポケットから羊皮紙の束を取り出した。枚数にして10枚はくだらない。
「俺がここ数日間をかけて考えたお前の悪行リストだ。せめてそれを聞いてから退場しろ」
何をおっしゃられているのかしら? このお方は?
「お前がマリアに対しておこなってきた数々の悪行が書いてある」
無視することにしましょう。
「待て、待て! 歩みを止めろ。いいから聞くのだ!」
「はぁ?」
「まずお前は普段からマリアに対してつらく当たっていたな? 調べはちゃんとついているのだ。お前はよくマリアを嫉妬で睨めつけたり、その口でもって罵ったりしたそうじゃあないか。この前の夜会でマリアのドレスにスープをかけたのもお前だろう?」
「そうですか」
全く身に覚えがなかった。私は歩みを進めた。
「だから待てって! そもそもなんで泣きついてこない!? ここは崩れ去り追いすがる場面だろう!?」
「先ほども言いましたが私は淑女教育を受けた身ですので」
「なるほど淑女だものな。婚約破棄されてもそそくさと帰るわけだ……そんなわけあるか! どこに王子に婚約を解消されてさっさと帰る淑女がいる!」
「ここにおりますが」
「そうだよ! ここにいるんだよ! どういうことだよ!? せめて理由を聞けよ!! そして泣きわめけよ!」
ジークハルト様は半狂乱になって叫んでいる。
私は歩みを止めず出口へ向かった。
「頼むから聞いてくれよ! お前が驚愕の表情を浮かべたらいうはずの台詞をミッチリ練習してきたんだよ! 『フッ思い当たるふしがあるようだな』って! それがそうですかってなんだよ! 少しは驚けよ!
これじゃ俺が一人で狂乱してるバカみたいじゃないか!」
「よくご自分を客観的にみられましたね。流石です。殿下」
「褒めてないよね!? どれだけ俺を馬鹿にするんだよ!! いいからせめて罪状を聞いてけって! 周りの貴族連中にいかにお前が嫉妬深く醜い人間か見せてつけてやらねばならんのだから!」
すでに私は会場の出口にたどり付き大扉をくぐるところだった。
「聞けよぉおおお! 俺の断罪スピーチをよぉおおおお!!」
そそくさと会場を後にする。
後ろを振り返ると、かつて誇り高かった第一王子が、冤罪スピーチの原稿を振り回しながら追ってきている
私は馬車に乗り込み言った。
「出してちょうだい」
「かしこまりました。 エリザベート様」
「待てぇえええ!! まず第一にお前はいつも俺の髪型が変わった時に気づかな――」
バタン!!
重厚な馬車のドアが、ジークハルト様のスピーチを遮った。
御者が鞭を振るい、馬車が動き出す。
外を見ると汗でシワシワになった原稿を握りしめたジークハルト様が何事か叫んでいた。
「まてぇええ!まだ1個目しかおわってなぁあああい!!」
私は窓のカーテンを閉めた。
「ふぅ、これで私も自由の身ですのね」
色々面倒なこともあるだろうが、あのバカ王子から解放された私は、これから来る日々に胸を躍らせるのだった。
後にはジークハルト様の叫びだけがやけにこだましていた。




