夜は必ず迎えに来る
気付けば私は、
また黒月宮へ立っていた。
静寂に沈む、
果てのない闇。
黒曜石の床に、
淡い紫光が揺れている。
……また、
来てしまった。
レオニス様の温もりが、
まだ胸に残っているのに。
それでも私は、
ここへ来てしまう。
玉座の上。
足を組み、
頬杖をついたノクティスが、
こちらを見下ろしていた。
「……随分、
甘やかされてきた顔をしているな」
低い声。
からかうようでいて、
どこか苦しそうだった。
私は小さく目を伏せる。
「……ノクティス」
名前を呼んだ瞬間。
気付けば、
腕を掴まれていた。
強引に引き寄せられる。
「っ……!」
そのまま、
闇色の長椅子へ押し倒されるように座らされた。
逃げようと思えば逃げられる。
なのに。
逃げなかった。
ノクティスの長い指が、
私の銀色の髪を掬う。
「……あの小僧に、
触れられてきたな」
囁く声が低い。
ぞくりと背筋が震えた。
「髪から、
あいつの匂いがする」
責める声ではない。
けれど、
酷く苦しそうだった。
私は何も言えなくなる。
ノクティスはそんな私を見て、
自嘲するように笑った。
「お前は光を愛した」
その言葉に、
胸が痛んだ。
「……っ」
「優しく抱き締められて、
愛されて、
守られて」
紫の瞳が、
真っ直ぐ私を射抜く。
「それでも、
月を忘れられない」
静かな声だった。
怒りではない。
諦めでもない。
どうしようもなく深い執着。
それが苦しいほど伝わってきた。
私は、
息を詰まらせる。
だって本当に、
その通りだったから。
レオニス様を愛している。
一緒にいると安心する。
幸せだと思う。
なのに。
この闇へ来ると、
心の奥がほどけてしまう。
誰にも見せられない孤独が、
静かに呼吸を始める。
ノクティスだけが、
その孤独を知っている。
塔の中で、
誰にも愛されず。
誰にも必要とされず。
泣くことすら許されなかった、
あの頃の私を。
全部。
知っている。
「……どうして、
そんな顔をする」
ノクティスの指先が、
私の頬へ触れる。
「お前は、
幸せになっていい」
そう言いながら。
その瞳は、
まるで自分へ言い聞かせているみたいだった。
私は思わず、
彼の服を掴む。
「ノクティス……」
その瞬間。
ノクティスの表情が、
僅かに歪んだ。
堪え切れなくなったみたいに。
次の瞬間、
唇が塞がれる。
「……っ」
深い口付けだった。
息を奪うように。
逃がさないように。
優しいのに、
どこまでも執拗で。
レオニス様の口付けとは違う。
これは、
溶かされる感覚。
闇へ沈められていくみたいな。
「んっ……ぁ……」
唇が離れた瞬間、
熱を逃がすように息が漏れる。
ノクティスは、
私の額へ自分の額を重ねた。
「……お前は残酷だ」
掠れた声。
「光を愛しながら、
闇を切り捨てない」
苦しそうに笑う。
「そんな顔で、
俺を求めるな」
胸が締め付けられる。
私は、
彼を愛してはいけないのだと思う。
でも。
切れない。
この闇を知っているから。
この孤独を知っているから。
そしてきっと、
私自身も。
この闇に、
救われてしまったから。
ノクティスは、
そっと私の髪へ口付ける。
「……安心しろ」
低く、
甘い声。
「お前が光のもとへ行っても、
夜は必ず迎えに来る」
その言葉は、
呪いみたいだった。
なのに。
どうしようもなく、
安心してしまった。




