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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月の女神
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初めての城下町

「行こうか」


そう言って差し伸べられた手へ、

私はそっと自分の手を重ねた。


そして、

王家の白銀の馬車へ乗り込む。


……なんだか、

今日のレオニス様は少し落ち着かないように見えた。


「……あの」


「レオニス様がくださったドレスを着てみたのですが……

いかがですか?」


そう尋ねても、

なかなか返事が返ってこない。


……やはり、

似合わなかったのかしら。


不安になった私は、

もう一度声をかけた。


「……レオニス様?」


そこまで似合わないのでしたら、

戻って着替えてきた方が――


そんな事を考えていた時だった。


「…………とても美しい」


「言葉を失ってしまうほどに」


「……良かったです」


思わず、

安堵したように微笑んでしまう。


するとレオニス様は、

少し視線を逸らしながら言った。


「……ミスティリア、

隣に座ってもいいか?」


「構いませんが……

どうされたのですか?」


「……少しでも、

そばにいたいんだ」


……今日のレオニス様は、

本当に少し変。


でも、

嫌ではなかった。


一一


白銀の馬車は、

城下町の中でもひときわ目立つ。


人々は皆、

王家の馬車へ視線を向けていた。


そして、

私が乗っていると分かった瞬間――


様々な反応が広がっていく。


恐れる者。


戸惑う者。


興味深そうに見つめる者。


……やはり、

レオニス様にご迷惑を――


そう思い俯きかけた時、

そっと手を握られた。


「ミスティリア、

心配することはない」


その言葉だけで、

不思議と少し安心できるのだった。


一一


最初に訪れたのは、

城下町でも人気のレストランだった。


「何が食べたい?」


「私は、

レオニス様と同じ物がいいです」


初めてのレストラン。


初めて、

自分で食事を選ぶという経験。


……少し、

落ち着かなかったのだ。


運ばれてきた料理は、

見た目も味も本当に素晴らしくて。


思わず目を輝かせてしまいそうになるのを、

必死に堪えていた。


一一


食事を終え、

レストランを後にする。


「ミスティリア」


そう言って差し出された腕へ、

私はそっと腕を重ねた。


レオニス様と並び、

城下町を歩く。


……白夜王国へ来た時、

王家の馬車を見た民衆の反応を思えば、

私を恐れている者もまだ多いはず。


でも――


前より、

恐怖や嫌悪の声が少ない。


そう思っていた時だった。


「“げっしょくの王”さまだ〜!」


「わぁ、きれいっ!」


「ちがうよ!

“月のめがみさま”だよ〜!」


「……どっちでもいいよ。

だってきれいだもん!」


……思わず、

足を止めた。


嬉しかった。


レオニス様が連れてきてくださったこの場所で、

少しずつ受け入れられていることが。


思わずレオニス様を見ると、

彼は優しく微笑んだ。


「皆、

君に興味津々だ」


「手を振ってあげたらどうだ?」


言われた通り、

恐る恐る手を振ってみる。


すると子供達は目を輝かせ、

一斉にこちらへ駆け寄ってきた。


それをきっかけに、

周囲の民衆までも集まり始める。


「婚約の噂は本当なのですか?!」


「そうなれば我が国は安寧だ!」


「レオニス王子が笑ったぞ!」


「氷を溶かしたんだ!」


「白夜のドレス、

とてもお似合いです!」


「王子からの贈り物ですか?!」


「帝国を救ったと聞きました!

やはり女神様だ!」


人だかりがどんどん大きくなった頃、

レオニス様が静かに口を開いた。


「皆、

彼女をあまり困らせないでくれ」


「……時期に婚約の発表をする予定だ」


「今日は、

ミスティリアと初めてのデートなんだ」


「失礼させてもらうよ」


……デート。


そう言われた瞬間、

胸が熱くなった気がした。


「……ミスティリア、

良かったな」


「……っはい!」


微笑むレオニス様へ、

私はそう返すので精一杯だった。


その後は、

読書が好きな私のために本屋へ連れて行ってくださった。


そして、

茶菓子が有名なティーサロンへ向かい、

一緒にお茶を楽しんだあと、

セレフィーナ様へのお土産まで選んだのだった。


気付けば、

空は茜色に染まり始めていた。


王城へ戻る馬車の中。


レオニス様は、

ふいに私へ小さな花束を差し出した。


「ミスティリア、

これを君に」


白薔薇の花束だった。


月明かりのように白く、

とても綺麗で。


「……綺麗……

いいんですか?」


「もちろん」


「君のために用意したんだ」


……嬉しかった。


胸の奥が、

じんわり暖かくなるようで。


一一


部屋へ戻った私は、

すぐに白薔薇を花瓶へ飾った。


……でも。


なぜだろう。


一人でいたくなかった。


レオニス様に会ったら、

きっと落ち着く気がした。


……迷惑じゃないかしら。


でも、

まだ夜も更けていない。


レオニス様だって、

私の部屋へ来てくださることがあるもの。


……そうだわ。


今日のお礼を伝えに行くの。


自分へそう言い聞かせながら、

私は部屋を出た。


そして――


恐る恐る、

レオニス様の部屋の扉をノックした。

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