第5話 銀髪の女騎士リリアーナは、王子と踊る
最終話ですー
「視線が痛いです。」
「気にすることなんてないよ。どうせ明日にはここを立つんだから。」
軽快な音楽が流れている。リリアーナとエルネンは、ホールの中心でダンスを踊っていた。
王弟と、女騎士のペアだ。二人は人目を引いた。
腰の剣を鳴らしながらターンした。背中まである銀髪が、フワッと広がる。
「何だか、上達していないかい。」
「気のせいでしょう。」
夜の戦場は、やることがなかった。
酔った若い騎士たちと火を囲んで、よくダンスの練習をした。
「僕はここで、孤独に兄上の代わりを務めていたのに。君は北部でダンスなんか。僕が教えると言ったのに。」
エルネンはぶつぶつと文句を言う。
再会してから、ずっとこんな調子だった。
後を追わなかったことは謝ったし、ダンスの誘いもしぶしぶ受けた。
いったい、いつ機嫌が治るのだろう。
「……私は、北部の戦争でテッセン卿が。」
「戦死するんだっていうんだろう。アリスから聞いたよ。」
「……え。」
エルネンはあの後、アリストラから全てを聞いたのだという。
自分が片目を失い、その後死ぬということも。
「君たち、それがこの国の建国話と酷似していることには、気が付かなかったみたいだね。」
「……え。」
それが、今から起こる出来事なのだと、疑ったことはなかった。
「女王と騎士の話では?」
「王と女騎士の話だよ。アリストラの読んだ話というのは、このことかも知れないね。わからないけど。それが、そんなに重要かい。」
リリアーナは、思わず足を止めた。
重要じゃないわけはなかった。
「私は——」
あなたのことを——
「大丈夫だよ。僕を、守ってくれるんだろう。」
グイッと腰を引き寄せられた。
「わっ。」
好きだった、幼い顔に不釣り合いなあの儚い笑みは、もう見れないのだろうか。それが、ほんの少しだけ残念だった。
エルネンの悪戯っぽい笑顔には、自分を肯定した強さが光る。
その自信が、魅力となって溢れ出る——
「やっと、僕のことを見たね。」
思わずパッと、視線を逸らした。その先だ。うっすらと光る魔法陣。
「——陛下。」
リリアーナは、あわてて走り出した。
シャンデリアが、王めがけて落ちてくる——
その下に、螺旋状に赤い魔法陣が次々と現れた。ガチャガチャと、スピードを落とす。
「……アリス?」
どこに隠れていたのだろう。魔法使いも、バタバタと人混みから飛び出してきた。
リリアーナは、王の前に滑り込んだ。
真上に思い切り剣を振る。シャンデリアは真っ二つになり、足元に叩きつけられた。
「舞踏場を直した時に、シャンデリアも外すべきでしたね。」
目眩がするような金属音に、頭をぶるぶると振った。
エルネンとアリストラが、駆け寄ってくる。
「陛下、申し訳ございません。弟子が一人、逃げ出したようで。」
「アリス、元気だった?」
「リリー、どうしたんだよその顔は。めちゃくちゃかっこいいじゃないか。エルネン様は、背が伸びましたね。」
「アリス、リリーがそっけないんだよ。」
「エルネン様が男らしくなったから、照れているのでしょう。」
キャッキャと騒ぐ三人に、王はピシャリと言い放った。
「お前たち、これを解決するまでは帰さないからな。」
復讐を企てるくらいには元気らしい。
テオールは、誰にも気づかれないよう、ホッと小さく息を吐いた。
こんなトラブルには慣れっこだ。軽快な音楽が、再び流れ出す。
三人は、ブツクサと文句を言い合いながら、肩を並べて歩き出した。
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