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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第5章 旅立ち
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4話 魔法使いアリストラは、失敗を認めない

 アリストラは、窓を開け、部屋に充満する煙を外に追い出した。


 モヤを吸い込んだ空と森は、それを溶かし、うっすらと輪郭を現し始めた。しかしまだ、星が小さく瞬く、夜明け前だ。


 床に丸まって寝息を立てる王子を抱き抱え、ベッドに寝かせた。長いまつ毛の間から、涙が一雫溢れた。


 術は、成功したのだろうか。


「あらら、リリー。大丈夫か。」


 部屋を出ると、リリアーナが真っ青な顔をして、廊下に座り込んでいた。


「城に来てから、刺客を何人か倒したでしょう。そいつらが、一斉に襲ってきて。」


 彼女は寝室でパタっと倒れたかと思うと、突然叫び声を上げて、部屋を飛び出したのだ。


「悪い夢を見たみたいだな。」


「本当にあれ、追想の術なんでしょうね。」


 術は……、失敗したのかもしれない。


 首を捻ると、リリアーナはやれやれと銀髪をかきあげた。


「まったく。まあ、いいよ。エルネン様は、真相にはかかわらず、時を巻き戻すっていうんだから。」


 彼女が最近不機嫌な理由の一つが、これだった。ドラゴンの討伐が嫌なわけではない。


「……私がドラゴンを斬ろう。」


「……いいや、リリー。俺が倒そう。」


「え?」


 彼女はポカンと俺の顔を見上げると、ケラケラと笑い出した。数日ぶりの笑顔だった。徐々に、顔色を取り戻す。


「そっか、アリス。それは、あんたの望みでもある。」


 そうだ。イリヤ・エリオールを生き返らせることは、俺の望みでもあった。


「覚えていたんだな。」


「いや、思い出したんだよ。まだ、信じられないけど。確か、私はそれに協力すると約束したね。」


 どれだけ笑うんだろう。涙を拭っている。


「そうだね。どうせこの先、嫌でも一緒だし。」


「嫌でもって、何だよ。」


 リリアーナは、この国の騎士となることを、ステラに認められなかった。


 俺たちは、この三年が終わればここを去り、ステラの下で、傭兵を続けていくことになるだろう。


「今度は、すぐにやられないでよ。」


 彼女は、エルネンの右目にはなれない。


「わかってるよ。」


 手を貸し、彼女は立ち上がった。もうそろそろ、王子が起きてくるだろう。


「……この戦争の行方は、わからないわけ?」


「まだ、物語が始まる前だからなあ。」


 しかし、確実に進んでいる。


「はーあ。アリス、私が貴方様の右目となりましょう。」


「嫌々言うなよ。これからも長い付き合いになるんだから。そうだろ?」


「別に、嫌ではないよ。冗談。私たちに敵う敵はいないんだから。」


 目の前の、重く、白い扉が開く。朝日と共に、王子が顔を覗かせる。


「二人とも、出発だ。」


 金髪が眩しいくらいに煌めき、透き通るような碧眼が、宝石のような輝きを放つ。


 その瞳が、キラキラと俺たちを魅了する——


「……エルネン様、もしかして泣いているのですか。私も悪夢を見させられて。」


「そんなことはしてないって。なにか……、違う魔法をかけたかもしれないけど。」


「失敗したなら、謝りなさいよ。なにをもじもじと。」


 王子は笑った。


「いいや。僕は、悪夢ではなかったよ。」


 リリアーナは、納得がいってないのか俺を睨みつけた。


「じゃあ、行きましょうか。」


 視線を逸らして、先頭を歩いた。


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