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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第6章 信星
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平伏の匪賊

登場人物

丘坤きゅうこん…………美質な弓の名手。あやかしの狻猊さんげいしもべに持つ。萬軍八極ばんぐんはっきょくのひとり。

介象かいしょう…………方士。干将かんしょう莫邪ばくや眉間尺みけんしゃくの三剣をびる。

元緒げんしょ…………方士。介象の師であり、初代の介象。

藺離りんり…………槍の手練者てだれ。妖しの火鼠かそを僕に持つ。萬軍八極のひとり。

欧陽坎おうようかん…………矛の手練者。妖しの短狐たんこを僕に持つ。萬軍八極のひとり。

巩岱きょうたい…………細作しのびのもの。介象に仕える。

娄乾ろうかん…………萬軍八極のひとりとおぼしき富豪。


韋震いしん…………賊徒のような身形みなりの若者。

尊盧そんろ…………あやかし。黄色い瞳の武者。蚩尤しゆうに仕える九黎きゅうれいのひとり。

蚩尤しゆう…………邪神。

季平きへい…………国の司徒しと。三公のひとり。三桓氏さんかんしと呼ばれる。

叔孫豹じょそんひょう…………魯国の司馬しば。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

孟献もうけん…………魯国の司空しくう。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

陽虎ようこ…………三公に仕える魯国の若き重臣。

蒼頡そうけつ…………妖し。剣の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。

風沙ふうさ…………妖し。美貌の持ち主。蚩尤に仕える九黎のひとり。

太皞たいこう…………妖し。老婆の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。


夸父こほ…………巨人の妖し。性質たちは狂暴。隻眼せきがんで緑の皮膚。

 丘坤きゅうこんを抱えた夸父こほの背を一瞥いちべつした韋震いしんは、ずと尊盧そんろに従った。

 宮廷内は、文官たちが忙しなくしていた。どれも顔色は悪く、何かに脅えているように見える。尊盧そんろの姿を認めると、眼を合わせることもなく、決まって大げさなまでに平伏した。

 その様子に、韋震は首を傾げながら尊盧の後に続いた。通されたのは、鼻に付くほど血生臭い玉座の間だった。

「只今戻りましたぞ、蚩尤しゆうさま」

「平然と玉座の間に庶民を連れて来られたか……」

 尊盧の帰還の挨拶に、玉座の間の後方に佇立した司徒しと季平きへいが肩を落とした。

「これまでの秩序は通用せん。逆らえば、死は免れませぬぞ、季平どの」

 季平に身を寄せ、小声で諭したのは司馬しば叔孫豹じょそんひょうだった。

「左様。暴挙から生き永らえることにのみ専心したら宜しい」

 同じように、季平に寄って囁いたのは、司空しくう孟献もうけんだった。

 この三公の盾となるように、陽虎ようこが整然と佇立ちょりつしている。

 帰還した尊盧が慇懃いんぎん拝跪はいきした相手は、異形の持ち主だった。そればかりではない。労せずとも人の命をぎ取るような得体の知れない力を持っている。邪悪――。そう直感した韋震は、従順な態度を以って尊盧の後ろで平伏した。

萬軍八極ばんぐんはっきょくを労せず捕えるとは、流石さすがだな、尊盧」

 頬杖を突いた蚩尤は、六つの眼を細めて尊盧を見遣みやった。

 玉座の脇に侍る四つ目の蒼頡そうけつが、満足げな笑みを浮かべながら盃を口に運んでいる。

 幼児を抱いていた。玉座の近くでは、豪華絢爛ごうかけんらんな着物で身を包んだ風沙ふうさが、馥郁ふくいくとした芳香を放ちながら盃で咽喉を潤していた。

「随分とみすぼらしい奴を連れて来たわね、尊盧?」

 風沙は、汚い物でも見るような眼付きで韋震を見下げた。

 玉座の後方に座していたのは、奇妙な老婆だった。薄汚れた白装束をまとい、両眼を閉じて水晶に両手をかざしている。

「この者、韋震と申す匪賊ひぞく。韋震の働きがあったればこそ、難無く萬軍八極を捕獲することができたのです。一層いっその事、新兵に加えてはどうかと。それなりに役には立ちましょう」

 尊盧が上申すると、後方に控えた韋震は、更に深々と平伏した。

「顔を上げろ、韋震」

 そう云った蚩尤に、韋震は恐る恐る顔を上げると、蚩尤を見返した。六つの眼に品定めされているようだった。

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