失踪の三剣
登場人物
昭公…………魯国の第二十五代君主。三公により魯国を追放される。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
王子喬…………冥界より派遣された方士。
讙…………狸に似た隻眼の妖し。
鐸飛…………怪鳥の妖し。人面で一足。
二体の讙の灯りにより、壁画も良く見えるようになるはずだった。
しかし、である。
「…………」
何かの戦の様子が描かれていたような壁画は、ずたずたに斬り裂かれ、見る影もなくなっていた。
王子喬は、無造作に地へ置かれた三剣の許まで身を寄せた。それを拾い上げると、代わる代わるまじまじと見遣った。
「流石だね。まだ充分に霊気が込められている。こういう代物を利用しない手はないよ」
微笑を浮かせた王子喬は、手にした三剣に念を込めた。
三剣が共鳴したように奇妙な光を帯びた。
微光が放たれた三剣を再び地に置いた王子喬は、懐中に手を入れると、小さな青い布切れの端を三つ取り出した。それにふっと息を吹いた。
三つの小さな布切れは、見る間に妖しの怪鳥、鐸飛へと変貌した。姿は梟のようだが、頭部は人面で一足しかなく、翼を広げれば十尺(三m)ほどもある。
「さあ、往っておいで」
三体の鐸飛はそれぞれ剣を掴み上げると、翼をはためかせ宙に浮いた。浮いたかと思えば、掴んだ剣諸共、すうっと消えてしまったのである。
冷笑を滲ませた王子喬が、鐸飛を見送るように手を振ったその時だった。
地鳴りがした。それは次第に大きくなると、轟音と共に立っていられないほどの大きな揺れとなった。
灯りがまた弱くなった。
天井から落ちてきた岩石が讙を潰していた。
真っ暗になった。
もう一体の讙も天井から降ってきた岩石の下敷きになった。
暗闇と巨大な地震の中、王子喬は不気味に笑った。頭上から岩盤が落ちてきた。王子喬の姿は、闇に飲み込まれてしまった。
その洞窟は、崩壊したようだった。




