邪気の解放
昭公…………魯国の第二十五代君主。三公により魯国を追放される。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
王子喬…………冥界より派遣された方士。
讙…………狸に似た隻眼の妖し。
「どこからどう見てもそうでしょ」
王子喬は、その声に平然と応じた。
「人……ではないな。冥界の者か?」
「まあね」
「何故に儂を解き放つ?」
「気紛れかな。僕が付け狙っていることを悟られるのは得策じゃないからね」
「……介象か?」
「御名答。何か僕に手伝えることは?」
「余計な真似をしないことだ。それにしても、以前にも増して人が増えたようだな。減らしても減らしても、塵のようにまた湧くと見える」
暗闇の中で、王子喬は薄ら笑って続けた。
「相変わらず愚かな生き物だよ」
「それでこそ我が民に相応しい」
「障害は、天より遣われし方士だね」
「次こそ儂が天に返す」
「余計な真似はしないけど、教えておいてあげるよ」
「…………?」
王子喬は、嬉嬉として告げた。
「今は、二代介象になっているよ」
「……初代はどうした?」
「一緒にいるよ」
闇からの声が含み笑うと、王子喬に返した。
「愉しみが倍になった」
すると――。
悍ましいほどの邪気と漲るほどの覇気が、忽ちのうちに消え失せた。
王子喬は、讙が立っていたはずのところから手探りで布切れの端を拾い上げると、再び息を吹き掛けた。
讙による灯りが戻った。
それにより、もう一体の讙がいたはずのところから造作もなく布切れを探し当てると、また息を吹き掛けた。




