決意新たに
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
巩岱…………細作。介象に仕える。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
蚩尤…………邪神。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
尊盧…………妖し。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
赫胥…………妖し。短槍の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
風沙…………妖し。美貌の持ち主。蚩尤に仕える九黎のひとり。
蒼頡…………妖し。剣の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
軒轅…………妖し。老爺の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。
裴巽…………魯国の若き将校。妖しの飛廉を僕に持つ。
太皞…………妖し。老婆の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。
夸父…………巨人の妖し。性質は狂暴。隻眼で緑の皮膚。
計蒙…………龍頭人身の妖し。剣の手練者。
「蚩尤が復活している」
藺離と欧陽坎は、束の間、呆然となった。
「やはり、あの刺青野郎が云っていたことは、本当だったのか……」
欧陽坎は、地に眼を泳がせた。祖父の顔が脳裏に浮かんだ。萬軍八極の血が、介象に会わせてくれたような気がした。
「さては、復活の時は先日の地震か……? 我が人生は、蚩尤を鎮撫するためのものであったか……」
藺離は、眉間に皺を寄せて瞑目した。浮かんできたのは、父と兄、弟たちだった。宿命に翻弄されているような気がした。
「藺離、欧陽坎……」
介象は、良く通る声音でその名を呼んだ。
二人は、はっと介象を見上げた。冴えた眼差しだった。
「俺には、お前たちが必要だ。萬軍八極が揃わねば、再び蚩尤を封印することはできまい。蚩尤を野放しにしては、世は地獄と化す。それを阻止するためにも、俺に力を貸してくれ」
介象は、丁重に頭を下げた。
「なっ――」
藺離と欧陽坎は、思わず眼を剥いた。萬軍八極、その主たる介象が頭を垂れて懇願したのである。その態度に、藺離と欧陽坎は忽ち胸を打たれた。
「そんな真似は止めてくれ、介象さま」
さっと立って胸を張ると、虎髭を逆立てるようにして欧陽坎は云い放った。
「生まれる前から、俺の主は介象さまと決まってらあ。決して裏切るようなことはねえ。蚩尤って化け物と戦うのが宿命ってんなら、俺は介象さまのために全力で戦うぜ!」
「当然だ」
欧陽坎に続いて立ち上がると、長髯を風に靡かせながら藺離は告げた。
「再び介象さまと共に戦う萬軍八極として、先祖が私を選んだのだと信じよう。我が身の置きどころは介象さまの側。介象さまのために尽力することをお誓い申そう」
藺離と欧陽坎は、揃って介象に拱手してみせた。
「ほう。三番目の徒弟、藺瑩と、六番目の徒弟、欧陽洪の子孫たちか。好い好い。立派なもんじゃ」
藺離と欧陽坎は、介象の側に立つ美質に眼を向けた。その肩には、奇妙な亀が乗っていた。




