焦燥の凶手
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
巩岱…………細作。介象に仕える。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
蚩尤…………邪神。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
尊盧…………妖し。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
赫胥…………妖し。短槍の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
風沙…………妖し。美貌の持ち主。蚩尤に仕える九黎のひとり。
蒼頡…………妖し。剣の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
軒轅…………妖し。老爺の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。
裴巽…………魯国の若き将校。妖しの飛廉を僕に持つ。
太皞…………妖し。老婆の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。
夸父…………巨人の妖し。性質は狂暴。隻眼で緑の皮膚。
計蒙…………龍頭人身の妖し。剣の手練者。
ギイイイン――。
各段に重い。赫胥は、介象の斬撃を受け止めた。受け止めたが、影は操れなかった。介象の剣から放たれた炎が、妖気を削いでいる。
矢継ぎ早に繰り出す重い斬撃に、赫胥は忽ち防戦一方になった。幾つもの円を描くような赫い閃光は、全て身を護るための動きだった。全身に走ったのは、久方振りの焦燥だった。
斬撃の隙間から、赫胥の血走った眼が捉えたのは、冴えた光を放つ介象の瞳だった。
朱に輝く火炎に塗れた雀が、次々と高速で飛来しては赫胥を襲う。介象の斬撃を凌ぎながら朱雀も斬る。斬った火の粉は、どういう訳か躰に燃え移った。影は使えず、介象の手数は落ちない。赫胥の額に油汗が浮き始めた刹那だった。
「――――⁉」
漣然とした光に見えた。介象が、もう一振り抜いていた。青鋼剣は眉間尺。斬撃の速度が更に上がると、手数は圧倒的に増えた。
「ぐっ‼」
堪らず赫胥が苦悶の表情を浮かべると、朱雀の閃光が刺青の躰を穿った。その躰は、忽ち火焔に塗れた。その炎は熱いだけではない。妖気と力を削ぐ。
死――。
それが赫胥の脳裏を過ると、本能で大きく飛び退いた。飛び退くと、身を翻して虚空高く跳躍した。
「介象さま――‼」
後方から、馬で寄せる丘坤の声が聞こえた。
丘坤は疾駈しながら、背より取り出した烏号に矢を番えた。霊気を繰り、虚空へ放った。その矢は瞬時に消えた。
介象は、踏み留まった。追撃はせず、刺すような鋭い視線を赫胥の背に送った。
一刻も早くこの場を立ち去らねば、殺られる――。
身を包んだ業火は勢いを増している。赫胥の本能は、残された妖気を振り絞って姿を消そうとした。
「――――⁉」
ふっと、横に浮き出たのは、狻猊だった。口が大きく開かれた。
ドスッ――。




