危急の一行
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
巩岱…………細作。介象に仕える。
蚩尤…………邪神。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
尊盧…………妖し。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
赫胥…………妖し。短槍の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
風沙…………妖し。美貌の持ち主。蚩尤に仕える九黎のひとり。
蒼頡…………妖し。剣の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
軒轅…………妖し。老爺の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。
裴巽…………魯国の若き将校。妖しの飛廉を僕に持つ。
太皞…………妖し。老婆の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。
夸父…………巨人の妖し。性質は狂暴。隻眼で緑の皮膚。
介象、元緒、丘坤は、若い女方士が率いる旅の一行を装っていた。
前方で地に落ちている実を啄んでいた雀の群れが、何かに驚いたように一斉に羽搏いた。
大きな荷を背負っている。気付けば、その前方から歩み寄せて来たのは、旅装の老人だった。その老人は、介象と擦れ違い様、聞こえるか否かの声音で口早に告げた。
「これより先、奇妙な者が二人の旅人と交戦しております。刮目すべきは、どれも異能の持ち主。介象さまの周辺が騒がしくなっております。お気を付けくだされ」
老人は、何事もなかったかのように擦れ違って先を進んだ。
「…………」
手綱を曳いた介象も前を向いて、只、擦れ違った。
「巩岱か。良い塩梅で斥候を務めてくれおる」
介象の肩で、元緒が巩岱を褒めた。
擦れ違ったのは、旅装の老人に姿を変えた細作の巩岱だった。
「ああ。しかし、異能とは気になるな……」
口許に片手を据え、思案した介象は馬上の美質を呼ばわった。
「丘坤」
「はい」
擦れ違った老人に違和感を抱いたのか、丘坤の顔は強張っていた。
「この先へ狻猊を放ってくれ。霊気を繰る者がいるはずだ」
「――――⁉」
危急を察した丘坤は、霊気を練った。肩越しに、すうっと出現したのは、獅子のような首だけの狻猊だった。
「狻猊、この先で霊気を操る者を捉えて!」
丘坤が命じると、狻猊の姿は忽ち消えた。
「萬軍八極の誰人かでしょうか……?」
「どうかな? 事と次第によっては、ここから急行せねばならぬ」
馬上から尋ねた丘坤に、介象は微笑を向けた。
「……蚩尤め、よもや先手を打ってきたか?」
介象の肩で、元緒がぼやいた刹那だった。
「捉えた‼」
丘坤は声を張り上げると、捲し立てるように告げた。




