急襲の献策
登場人物
蚩尤…………邪神。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
尊盧…………妖し。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
赫胥…………妖し。短槍の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
風沙…………妖し。美貌の持ち主。蚩尤に仕える九黎のひとり。
蒼頡…………妖し。剣の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
軒轅…………妖し。老爺の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。
裴巽…………魯国の若き将校。妖しの飛廉を僕に持つ。
太皞…………妖し。老婆の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。
夸父…………巨人の妖し。性質は狂暴。隻眼で緑の皮膚。
「いずれにせよ、萬軍八極が介象の許に集うは厄介。我らに盾突くは眼に見えております」
蒼頡は、玉座に在る蚩尤の横から一歩前に出ると、低いが良く通る声音で尋ねた。
「どうでありましょう、蚩尤さま。萬軍八極が介象の許に集う前に、こちらから急襲しては? 八極のうち一極でも崩れれば、その真価を発揮することはできぬかと」
蚩尤の面貌が、不気味に歪んだ。
「面白いな」
「そうであれば、私が参りましょう!」
勇んだのは、豪奢な鎧に身を包んだ尊盧だった。
「俺も往こう。退屈していたところだ」
声を放ったのは、壁に身を擡げていた赫胥だった。
「赫胥と尊盧の二人であれば、戦果は上々でございましょう」
二人を見遣った蒼頡は、裁可を仰ぐように蚩尤へ向き直った。
「赫胥、尊盧、往け」
「はっ」
仰々しく拱手した尊盧は、すうっと姿が薄くなると消えていた。
いつの間にか、赫胥の姿も消えている。
「こ、これは、また何か大変なことになりそうじゃな……」
蚩尤と九黎の遣り取りに耳を澄ませていた季平と孟献は、玉座の間に戻った二人に気付いた。
「あの二人の顔も、見るに耐えんがな……」
顔色は芳しくなかった。赫胥と尊盧と入れ替わるように玉座の間へ戻って来たのは、叔孫豹と陽虎だった。どこか、疲れ果てているようにも見えた。
「介象と萬軍八極か……。さて、どう出るかな?」
独語した蚩尤の前に、叔孫豹と陽虎が傅いた。応接間での検分を報告するようだった。
空は晴れていた。
魯国は陬の城郭にほど近い長閑な畦道だった。
葦毛の駒に跨っていたのは、白い道袍を纏った美質だった。
その手綱を曳く従者は、漆黒の襤褸を纏った偉丈夫である。肩に奇妙な姿の亀を乗せている。




