魁、義兄弟
祁盈…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
楊食我…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
爺…………欧陽坎の祖父。
「……兄者と……呼んでも良いのか……?」
欧陽坎は、照れ臭そうに云った。
「勿論だ、欧陽坎。この一杯の盃に誓おう。如何なる時も、如何なることが起ころうとも、この一杯を飲み干したときから、私たちはいつまでも兄弟だ」
「……応‼」
藺離と欧陽坎は、意気投合すると、それぞれ手許の盃を呑み干した。
「兄者‼」
「うむ、弟よ‼」
二人は、揃って呵呵と大笑した。
明くる日――。
藺離と欧陽坎は、再び翼の郊外にある酒店の前で落ち合うと、肩を並べて旅路に着いた。偉丈夫が二人並んで歩く姿に、擦れ違う人々はどれも振り返った。
「介象さまは元来、漆黒の襤褸を纏っておられる。先日、介象さまと思しき御仁を見たという者と話ができた。どうやら魯国に向かっていたらしい」
二人は、本当の兄弟のように、他愛もない談笑をしながら魯国を目指した。何やら愉しげな二人に疲れは見えなかった。
五里ほど歩いたときだった。束の間、地鳴りがした。その地鳴りが揺れに変わった。
「――――⁉」
揺れは次第に大きくなると、立っているのも難しいほどの巨大な地震となった。
「な、何だ、これは――⁉」
藺離と欧陽坎は、互いに眼を剥き顔を見合わせた。
巨大な揺れに紛れ、微かな妖気が地より涌いているのを感じ取った。
長い揺れは徐々に治まると、再び地鳴りとなって元の静けさを取り戻した。
義兄弟は、互いに驚愕の表情で向き合ったままだった。




