粋な申し出
祁盈…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
楊食我…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
爺…………欧陽坎の祖父。
欧陽坎は、邑を後にした。往く宛てはなかった。晋の国内を彷徨い歩いた。旅の途次で、重量感のある矛を自在に繰れるよう、自分なりに技を磨いた。短狐も召喚すると、技の鍛錬を繰り返した。
あるとき、欧陽坎は五十ほどの賊徒をひとりで討伐した。その武勇を晋の重臣の祁盈に見込まれ食客となった。齢二十三となっていた。
「まあ、そんなとこだ」
欧陽坎は、盃を呷るようにして酒を咽喉に流し込んだ。
その眼前で腕組みのまま、ふむふむと欧陽坎の話を聞いていたのは、藺離だった。聞けば、弟の藺翼と同じ歳だった。風貌骨格もどことなく似ている。藺離は、欧陽坎の話を聞くに従い親しみが湧いた。
「なあ、欧陽坎どの」
「どうした?」
「どうもお主を見ていると、実の弟のように思えてならん。一層のこと、私と義兄弟になる気はないか?」
藺離は、欧陽坎の空いた盃に酒を注ぎ入れた。
「ぎ、義兄弟――⁉」
「そうだ」
藺離は、盃を口に運ぶと続けた。
「私たちは、共に萬軍八極同士。二人で介象さまを探すというのはどうか? 介象さまであれば、きっと私たちへ指針を示して下さるだろう」
欧陽坎は、藺離を見詰めたまま、酒を一口ごくりと呑んだ。何ら目標のなかった欧陽坎にしてみれば、興味深い誘いだった。このまま、祁盈の食客をしていても、いいように使われるのが落ちだった。
それよりも、兄弟のいない欧陽坎にとって、藺離と義兄弟になる話の方が魅力的に聞こえた。対面している藺離は、武も然る事乍ら、明察で義のある人物に見えた。




