祖父の自慢
祁盈…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
楊食我…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
爺…………欧陽坎の祖父。
「俺には、不可思議な力が宿ってしまった……」
「儂の爺さまと一緒じゃな」
「…………」
欧陽坎は、寂しそうな眼差しで右手首を見遣った。八芒星の痣が、また少し濃くなったように見えた。
それ以来、欧陽坎の父が営む店には、誰人も寄り付かなくなった。
「あそこの肉を食うと化け物になる」
巷には、瞬く間に噂が広まり、窮地を救ったはずの欧陽坎とその家族は、邑から爪弾きにされた。
父親は、酒浸りになった。
矛を担ぎ、旅装をした欧陽坎が、店の裏で鳥の血抜きをしている祖父の許に身を運んだ。
「爺……」
「何じゃ?」
「この邑を出ることにした」
「…………」
祖父は、手を血塗れにして作業に没頭していた。
「俺がいれば、おっ父にも爺にも迷惑を掛けることになる」
「…………」
「おっ父はあんな塩梅だから、黙って出て往くぜ。長生きしろよ、爺」
無理に声を弾ませ、欧陽坎は告げた。踵を返して、家から出ようとした時だった。
「坎や」
「あん?」
欧陽坎は、振り返った。
作業を中断した祖父が身を起こすと、曲がった腰で欧陽坎を見詰めた。
「お前は、辛抱強い。誰人に対しても表裏のない儂の自慢の孫じゃ。儂の爺さんのように、己が信じた道を往ってみい。腹が減ったらいつでも帰ってくりゃあ良え」
祖父は、破顔して見せた。
欧陽坎は、胸が熱くなるのを覚えた。溢れ出そうなものを堪えるように再び前を向いた。
「わかってるよ」




