遭遇の猛獣
祁盈…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
楊食我…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
爺…………欧陽坎の祖父。
その報せを受けた欧陽坎は、矛を手に熊が現れたところへ駈け付けた。それに遅れて、祖父も欧陽坎の後を追った。
人を恐れていない。二足で立った熊は、優に八尺(約百九〇㎝)を超えている。近寄る人に鋭い爪を振り下ろした。足許には、その爪牙の餌食となった欧陽坎の仲間のひとりが倒れ伏している。息はしていないようだった。巨大な熊は、狩った獲物を奪われることを拒んでいるように見えた。
駈け付けた欧陽坎は、その眼を見張った。
見たこともないほどの巨大な熊だった。倒れた仲間を援けようにも、あまりの恐ろしさに、皆、足が竦んでいる。
「でかい上にまるで人を恐れとらん。あれは、人を喰っておるのう……」
遅れて駈け付けた欧陽坎の祖父が、息を切らせて眉を顰めた。
「人の味を知ってしまったな。山に追い返しても、また里に下りて来るじゃろう」
熊を睥睨した欧陽坎は、矛の切っ先を向けた。少しずつにじり寄ると、ふと合点がいった。
「山から帰らなかった奴らは、此奴の仕業だというのか、爺……?」
「恐らくな」
刹那――。
遠吠えを上げると、両手を翳した熊が二本脚で立った。
「――――⁉」
欧陽坎を優に超える巨大さだった。
矛を身構えた欧陽坎に、熊の爪牙が振り下ろされた。
欧陽坎は、簡単に吹き飛ばされた。爪で抉られた胸から血が噴き出している。
「坎――⁉」
祖父の声が響くのにも構わず、狙いを定めたように、巨熊は欧陽坎に迫った。
即座に立ち上がった欧陽坎は、環眼を引き剝くと熊の頭を斬って突いた。
怒髪天を衝くような熊が、再び仁王立った。
空かさず欧陽坎は、力任せに袈裟斬りの一閃を放った。感触はあった。
だが――。
何事もなかったように、熊は欧陽坎に襲い掛かった。
「――――⁉」




