火の猛反撃
祁盈…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
楊食我…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
藺離は、己と同じような異能の持ち主に違和感を抱いた。不敵な笑みを浮かべたのは、藺離の番だった。霊気を繰ると、ふっと肩に現れたのは、妖しの火鼠だった。続けて、藺離の背後に浮き出て上空へ走ったのは、三つの火の玉だった。人の頭ほどの大きさだった。
「な、何だ――⁉」
上空に走った玉灼に気を取られた欧陽坎の隙を突き、藺離は後方へ身を翻した。
「むっ?」
欧陽坎は、藺離の次なる攻撃に備えるように身構えた。
「こちらに気を取られて良いのか? このままだと玉灼が頭上から降り落ち、丸焦げになるぞ」
はっとした欧陽坎は、上空に矛で弧を描くようにすると、厚い水の層が傘のように頭上を覆った。
それに玉灼が三つ落ちた。
ジュワッ――と音を立て、たちどころに辺りを覆うような濛濛とした水蒸気が発生すると、欧陽坎が作り出した厚い水の層も、藺離が放った玉灼も消えていた。
その間隙を縫うように、藺離は一閃を放った。その斬撃は焔を帯び、欧陽坎の右腕の裾を焼き消した。
「――――⁉」
欧陽坎は、思わず眼を剥くと息を飲んだ。
「やるなあ、藺離とやらよ。俺と似たような技を使う対手は、お前が初めてだ。では、これはどうだ?」
欧陽坎が頭上で矛を旋回させた刹那だった。
「ま、待て‼ 待ってくれ、欧陽坎――‼」
掌を欧陽坎に向けて、藺離が待ったを掛けた。只事ではない様子である。
「あん? これから盛り上がろうって時に、どうしたってんだ?」
興を削がれたような欧陽坎が、渋面を作って肩に矛を掛けた。
「これを、これを見てくれ……」
藺離は、己の右腕の袖を捲ってみせた。八芒星の黒い痣が浮いていた。
「んん――⁉」
眼を円くして驚いたのは、欧陽坎だった。己の右腕にある痣と見比べている。
どこか安堵したような藺離は、長髯を揺らしながら欧陽坎に歩み寄った。




