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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第3章 義星
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名医の扁鵲

登場人物

藺石りんせき…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。

藺授りんじゅ…………藺家の長子。苛烈かれつな槍の名手。

藺離りんり…………藺家の次子。槍の手練者てだれ。道徳的な思想を持つ。

藺翼りんよく…………藺家の三男。豪快な槍術の持ち主。

藺冑りんちゅう…………藺家の四男。鋭敏な槍術の持ち主。

扁鵲へんじゃく…………諸国を放浪する類稀たぐいまれな医の


火鼠かそ…………炎を自在にあやかし。

 舞ったのは、血飛沫ちしぶきだった。

 藺離りんりからだに深く入ったやいばが、左肩から右の脇腹まで走った。その躰は、仰向けに倒れると動かなくなった。

 肩で息をした藺授りんじゅが、すんとも動かなくなった藺離を見下げた。眠っているように見えた。手にしていた槍が、手から滑るように地へ落ちた。ゆっくりと藺離に近付くと、その躰に跨るように覆い被さった。藺離の右腕、その袖をまくった。

「――――⁉」

 八芒星はちぼうせいだった。手首の内側に薄っすらと浮き上がっていた。

 藺授は、苦悶くもんの表情を浮かべると、眼をつむった藺離の襟首えりくびを両手で掴んで揺すった。

何故なにゆえ……何故、お前なんだ――⁉」

 藺授は、天を仰ぎ見ると慟哭どうこくした。

「ま、まずい! このままでは離兄が……。ちゅう、手を貸せ! 急いで離兄の手当てだ!」

「お、応!」

 藺翼りんよくと藺冑は、藺離の許に駈け寄ると、泣きじゃくる長兄の躰を退かし、藺離を運んだ。それにほかの弟たちも手を貸すように駈け寄っていた。 

 門弟たちが見守る中、膝を突いた藺授が、いつまでも天を仰ぎいている。

「…………」

 その様子を眺めていた藺石りんせきが、高台からきびすを返した。その姿は、邸内ていないへ消えていた。


 枕元には、父、藺石の姿があった。

 藺離が眼を覚ましたのは、試合から三日後のことだった。

 手負いの藺離がやしきに運び込まれると、その弟たちは騒然となった。藺離の顔は見る見るうちに青褪あおざめ、眼を覚ます気配はなかった。

「静まれ。常に平静を保つようでなくば、真の強さを会得することはできぬぞ」

 藺翼と藺冑、その弟たちの前に姿を現したのは、藺石だった。白髪白髯の小柄な老爺ろうやを連れている。白袍はくほうまとった面識のない老爺だった。

「案ずるな。離は、この扁鵲へんじゃくさまが救ってくださる」

 その老爺は、扁鵲という医のだった。当代の医の徒と云えば、必ずその名が挙がるほどの名医だった。あらゆる事態を想定し、あらかじめ藺石が招聘しょうへいしていたようだった。

 扁鵲は、伏した藺離に身を寄せると、白髯をしごきながら袈裟斬けさぎりの傷を見遣みやった。

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