焦燥と猛攻
登場人物
藺石…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。
藺授…………藺家の長子。苛烈な槍の名手。
藺離…………藺家の次子。槍の手練者。道徳的な思想を持つ。
藺翼…………藺家の三男。豪快な槍術の持ち主。
藺冑…………藺家の四男。鋭敏な槍術の持ち主。
火鼠…………炎を自在に操る妖し。
藺離と藺翼は、屈託のない笑みを浮かべて童子の手を取った。
細身の童子は、冑という名だった。
次の年も、また次の年も、そうやって兄弟が増えていった。兄弟たちは、どれも長兄に懐いた。
藺授は率先して弟たちの面倒を見た。藺離、藺翼、藺冑もそれに倣った。
兄弟たちは皆、藺授を見習って槍の稽古をした。優しい兄のはずだった。それが、突如として変貌したようだった。それは、藺授が十五を迎えた頃だった。
「追い返せ。軟弱な弟を増やしても何も変わらん」
そうやって藺家の門を潜れなかった童子が三人いた。それ以来、新たな童子が迎えられることはなくなり、兄弟は八人から増えなかった。
その頃から、藺授は寝る間も惜しんで槍の鍛錬をするようになった。
陰から見守っていた藺離も、兄の身を案じながら同じように槍を振るった。
そのうち藺授は、父の門弟たちの誰人よりも強くなった。そして、年を経るごとに、藺授の弟たちへの当たりは強くなった。何かに急かされているように、いつも苛立っていた。
萬軍八極たる当主――。
藺離は、察していた。いつまで経っても浮き上がらない八芒星に、兄の藺授は苛立ちを隠し切れないでいた。
眼の光は冴えていた。
藺離は、ゆっくり息を吐くと刮目した。槍の先端から穂鞘を抜いて懐中に仕舞い込むと、腰を低くして身構えた。槍の穂先は、藺授の顔に向けられている。
「愚弟よ、そんな軟弱な構えでは、俺を追い出すことなどできんぞ」
藺授が舌なめずりした、その刹那――。
疾風の如く迫り寄った藺授は、突如として藺離の眼前に現れたようだった。胸に狙いを定め鋭い突きを放つと、斬り上げた。
藺離は、一歩飛び退き穿突を躱すと、斬り上げの一閃を仰け反るようにして避けた。顔に感じた斬風が、肌に粟を生じさせていた。
藺授は手を緩めない。薙ぎ、払い、斬り下げる。次から次へと必殺の一閃を放っている。
それを藺離が躱し、弾き、受け止める。
藺授の口辺に薄ら笑いが浮いた。強者が弱者を弄ぶように、藺授の穂先が藺離の四肢を容赦なく追い詰めていた。




