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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第3章 義星
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焦燥と猛攻

登場人物

藺石りんせき…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。

藺授りんじゅ…………藺家の長子。苛烈かれつな槍の名手。

藺離りんり…………藺家の次子。槍の手練者てだれ。道徳的な思想を持つ。

藺翼りんよく…………藺家の三男。豪快な槍術の持ち主。

藺冑りんちゅう…………藺家の四男。鋭敏な槍術の持ち主。


火鼠かそ…………炎を自在にあやかし。

 藺離りんり藺翼りんよくは、屈託のない笑みを浮かべて童子の手を取った。

 細身さいしんの童子は、ちゅうという名だった。

 次の年も、また次の年も、そうやって兄弟が増えていった。兄弟たちは、どれも長兄になついた。

 藺授りんじゅは率先して弟たちの面倒を見た。藺離、藺翼、藺冑もそれにならった。

 兄弟たちは皆、藺授を見習って槍の稽古をした。優しい兄のはずだった。それが、突如として変貌へんぼうしたようだった。それは、藺授が十五を迎えた頃だった。

「追い返せ。軟弱な弟を増やしても何も変わらん」

 そうやって藺家の門を潜れなかった童子が三人いた。それ以来、新たな童子が迎えられることはなくなり、兄弟は八人から増えなかった。

 その頃から、藺授は寝る間も惜しんで槍の鍛錬をするようになった。

 陰から見守っていた藺離も、兄の身を案じながら同じように槍を振るった。

 そのうち藺授は、父の門弟たちの誰人だれよりも強くなった。そして、年を経るごとに、藺授の弟たちへの当たりは強くなった。何かに急かされているように、いつも苛立いらだっていた。

 萬軍八極ばんぐんはっきょくたる当主――。

 藺離は、察していた。いつまで経っても浮き上がらない八芒星はちぼうせいに、兄の藺授は苛立ちを隠し切れないでいた。

 眼の光は冴えていた。

 藺離は、ゆっくり息を吐くと刮目した。槍の先端から穂鞘ほざやを抜いて懐中ふところに仕舞い込むと、腰を低くして身構えた。槍の穂先は、藺授の顔に向けられている。

「愚弟よ、そんな軟弱な構えでは、俺を追い出すことなどできんぞ」

 藺授が舌なめずりした、その刹那せつな――。

 疾風はやての如く迫り寄った藺授は、突如として藺離の眼前に現れたようだった。胸に狙いを定め鋭い突きを放つと、斬り上げた。

 藺離は、一歩飛び退穿突がとつかわすと、斬り上げの一閃をるようにして避けた。顔に感じた斬風ざんぷうが、肌にあわを生じさせていた。

 藺授は手を緩めない。薙ぎ、払い、斬り下げる。次から次へと必殺の一閃を放っている。

 それを藺離が躱し、弾き、受け止める。

 藺授の口辺に薄ら笑いが浮いた。強者が弱者をもてあそぶように、藺授の穂先が藺離の四肢を容赦なく追い詰めていた。

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