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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第3章 義星
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長兄と次弟

登場人物

藺石りんせき…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。

藺授りんじゅ…………藺家の長子。苛烈な槍の名手。

藺離りんり…………藺家の次子。槍の手練者てだれ。道徳的な思想を持つ。

 しかし、である。

 藺離りんりの眼には見えていた。炎に覆われた栗鼠リスのようだった。父の藺石りんせきには、得体の知れない化け物がいている。その化け物がまとわり付いている時、藺石が繰り出す槍術には、ほむらほとばしり、炎が渦巻いた。そして、そのことをほかの兄弟たちは、まるで気付いていないようだった。

「また俺とお前が残ったな、離よ」

 肩に槍を担ぐようにして、藺授りんじゅは不敵な笑みを浮かべた。

「……はい。兄上」

 返事をした藺離は、穂先を兄の藺授へ向けて構えた。

「お前は強い。だが、その軟弱な槍術では俺に勝てぬ。強さが全てのこの藺家、継ぐのは俺と決まっている。八芒星はちぼうせいが表れぬのが不思議なくらいだ」

「……強さの先に、何があるというのでしょうか?」

「ああ?」

 頓狂とんきょうな声を上げた藺授は、怪訝けげんかんばせを藺離にさらした。

「本当に強さが全てなのでしょうか?」

「全てだ」

 疑問を投げた藺離に、兄の藺授は即答していた。

「強くさえあれば、地位、名誉、銭、全てが手に入る。お前は昔から考え方も軟弱だ。気に入らん」

 すると――。

 怒涛どとうの勢いで猛進した藺授は、突き、払い、薙ぎ、無数の迅業はやわざで、たちまち藺離を追い込んだ。

「――――⁉」

 藺離は、その全てを槍の柄で防いでいる。

 藺授が雄叫おたけびを上げると、その勢いは更に増した。

 藺授の猛攻を受けながら、藺離はその肩越しから腕組みした父の姿が眼に映った。眉間に深いしわを寄せ、高台から鋭い視線を向けている。

 何のための強さなのか――。

 瞬時、脳裏に過った。藺離には、わからなかった。強くなるために生きたいとは思わなかった。ゆっくりに見えた。藺授の袈裟斬けさぎりが左肩に降ってくる。藺離は、このまま受けようと思った。痛烈な痛みが左肩に走ると、藺離は片膝を地に突いた。

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