孤高の名手
登場人物
藺石…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。
藺授…………藺家の長子。苛烈な槍の名手。
藺離…………藺家の次子。槍の手練者。道徳的な思想を持つ。
藺翼…………藺家の三男。豪快な槍術の持ち主。
勝負はあった。
しかし、藺授は、叩き伏せるような一撃を藺離の背に打ち下ろした。
「――――⁉」
藺離は、顔から地に倒れ伏していた。
「離兄――‼」
地に伏した藺離の許に駈け寄ったのは、弟たちだった。
「また兄弟愛というやつか? お前らはそれだから羸弱だと云っているのだ」
藺授は、弟たちを侮蔑するような眼付きで北叟笑んだ。
「くっ!」
悔しげに歯軋りした三男の藺翼が、藺離を庇うようにして長兄の藺授を睨み付けた。
「どうした、翼? 槍の才など微塵もないお前が、何か俺に文句でもあるのか?」
藺授は、藺翼を見下した。
業を煮やした藺翼が眼の色を変え、藺授に打ち掛かろうとした、その時だった。
「――――⁉」
藺翼の腕を強い力で掴んだ者がいた。
はっとした藺翼は、振り返った。
藺離だった。苦悶の表情を浮かべている。
「……離兄」
「やめろ、翼……。一時の怒りに逸るは、身を滅ぼすことになる……」
「ほう」
藺授は、その遣り取りを嘲り笑った。
「不憫なことだ。弱さ故の兄弟愛だったか。藺家には要らぬものだ。ましてや、当主になる者には不要。違うと云うのであれば証明してやる。お前ら全員束になって掛かって来るがいい」
そう云うと、藺授は身構えた。蛇のように冷たい瞳で口許に微笑を浮かべていた。
六人の兄弟たちは、長兄の藺授を睨み返した。
「止めい!」
良く通る声音を放ったのは、父親の藺石だった。
その声に反応した藺授は、肩の力を抜いた。すぐさま踵を返して高台の父の許へ歩み寄った。




