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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
序章 嚆矢
3/6

突然の地震

登場人物

介象かいしょう…………方士。干将かんしょう莫邪ばくや眉間尺みけんしゃくの三剣をびる。

元緒げんしょ…………方士。介象の師であり、初代の介象。


計蒙けいもう…………龍頭人身の妖し。剣の手練者てだれ

大鶚たいがく…………尼丘山に住まう怪鳥の妖し。

 消えた大鶚たいがく屍骸しがいから、何事もなかったように着地した偉丈夫いじょうぶは、辺りを傍観した。

 風は止んでいる。薙ぎ倒された木々が幾つもあった。

「厄介な風を繰り返し巻き起こしおって。しかし、連日の暴風の元凶は断たれた。これで近隣に住まう民も安心しよう」

 ひょこひょこと身を寄せた老夫ろうふが、反歯そっぱの笑みを見せた。

「ここまで足を運んだ甲斐があった。それにしても、山のいただきが寝床だったとはな」

 あきれたような調子で偉丈夫が嘆息した。

あやかしが山の頂上に巣食うは、珍しいことではないぞよ。さて、次はどこへ向かうかえ、介象かいしょうよ?」

 云い終えるや否や、老夫の身は、まるで霊亀のような姿に変じた。頭に鹿の如き角を生やし、背には神木に水脈を彫ったような甲羅を備え、その後ろで蓑毛みのげを風になびかせている。

 その霊亀は、ひょいと偉丈夫の介象の肩に飛び乗った。三本足だが、鋭い爪でしっかり肩に掴まっている。

 きびすを返して歩き出した介象は、肩に乗った霊亀に尋ねた。

「ここは尼丘山びきゅうざんと聞いた。どこの国にあたるか、元緒げんしょよ?」

国じゃな」

 介象の耳元に、元緒の銅鑼どらのような声音こわねが返ってきた。

「魯か……。面白味のある者も多そうだが、何やら妖しが跋扈ばっこしてもいそうだな」

「お得意の予感かえ? 大鶚がおったような国じゃ。あながち予感も外れてはおるまいて」

 介象が腰にびている三振りの剣の鞘が互いに触れ合った。カチリと音を立てた。

「三剣も望むところと云っている」

 曇天どんてんの隙間から、青い空が見え始めている。

 突如、介象の力強い歩みが止まった。

 束の間、地鳴りがした。その地鳴りが揺れに変わった。

「――――⁉」

 揺れは次第に大きくなると、立っているのも難しいほどの巨大な地震ないとなった。

「こ、これは――⁉」

 介象は、思わずその眼をくと驚愕きょうがくした。

 巨大な揺れに紛れ、微かな妖気が地より涌いているようだった。

 長い揺れは徐々に治まると、再び地鳴りとなって元の静けさを取り戻した。

「…………」

「……嫌な予感しかせんのう」

 肩の元緒がぼそりと呟くと、介象は再び歩き出した。

 何やら背に視線を感じる。介象は、虚空から誰人だれかに見られているような気がした。

 来るなら来い。受けて立とう――。

 介象は、感じる視線に振り返りもせず歩を進めた。一歩一歩は力強かった。面貌めんぼうに浮かんだのは、不敵な笑みだった。

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