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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
序章 嚆矢
1/4

漆黒の襤褸

 曇天どんてんである。

 宙を舞った黒い大翼が繰り出す羽搏はばたきは、暴風を伴った。

 大翼の主の姿はわしに似ている。しかし、眼尻を走る毛並みと冠羽かんう、鋭い鈎状かぎじょうくちばしも黒いが、虹彩こうさいは黄、頭から胴は深紅で、脚には虎のような爪を携えていた。異様な容姿に加え、全長二百尺(六十m)ほどもある。

 これこそ、颶風ぐふうを産み出す怪鳥、大鶚たいがくだった。大鶚は人を喰らう。両翼を羽搏はばたかせ、暴風を巻き起こし、人を宙に吹き飛ばし狩る。

 この大鶚にしてみれば、今回ばかりは厄介な獲物だった。眼下には、同じような漆黒の襤褸ぼろまとった者が五人もいたのである。

 ひとりは不動の老夫ろうふだった。片手でしっかりと抑えた蓑笠みのがさの下で、不敵な笑みを浮かべている。その風貌骨格ふうぼうこっかくは何とも奇妙だった。

「あの嘴か爪に身を穿うがたれては、一溜ひとたまりもないのう」

 放たれた声音こわね銅鑼どらのようだった。

 しかし、容赦のない黒い羽搏きが、その声をき消した。

 身の丈は五尺(約百五十㎝)にも満たず、額は異常に突出し、鼻はひしゃげ、反歯そっぱである。どういう訳か右脚が木脚もっきゃくで、あかざの杖を突いている。纏った漆黒の襤褸が、勢い良く風に波打っていた。

 大鶚が繰り出す烈風にあらがうように、四つの黒い疾風はやてが右へ左へと走り、飛び回っている。

 見れば、三体は漆黒の襤褸を纏った龍頭人身のあやかし、計蒙けいもうだった。赤、青、黄――。それぞれの違いは、背負った剣の柄の色だけだった。

「ギャ、ギャッ」

 これから起こることを予見しているとでも云うのだろうか。けたたましく鳴いた大鶚は、見慣れぬ獲物に苛立いらだった。狙いを定め大翼から暴風を放とうとも、素早い身のこなしで芯を外されている。

 そして、もうひとり。

 腰には三振りの剣をびていた。壮室そうしつの頃も半ばを過ぎているだろうか。無造作な黒髪は肩まで伸び、眉はがり、鼻梁びりょう高く、首は太い。眼を開けばらんと輝く精悍せいかん偉丈夫いじょうぶは、纏った漆黒の襤褸をひるがえらせ、計蒙と違わぬ黒い疾風となって無尽蔵に走り、飛び回っていた。

 わずらわしさを覚えた大鶚が、再び大きな翼を羽搏かせようとした、その時だった。


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