第036話 打倒アルバート領
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新連載作品は土日なのでおやすみです。
ヴィエナの挑発的な提案が室内に響き渡ると、空気は一瞬にして緊張に包まれた。ゴードン公爵は顔を紅潮させ、拳を握りしめながら声を荒げる。
「おい、何を馬鹿げたことを言うんだ! そんな勝負があってたまるか!」
彼の怒声が壁に反響し、室内の重苦しさをさらに増幅させる。エドガーも驚きと困惑の表情を浮かべ、ヴィエナを諭すように話しかける。
「そ、そうだよ。負けた方が二度と逆らわず、地に額ずき謝罪する。これで十分だよ、ヴィエナ。」
彼の声には心配と戸惑いが滲んでいた。しかし、ヴィエナはその言葉に応じることなく、静かにアルバート家の面々を見つめ続ける。その瞳には、揺るぎない決意と冷静な光が宿っていた。
アイクはその視線に苛立ちを覚え、眉をひそめながら口を開く。
「公爵家の前だからって、強がった提案はよせ。」
彼の声には苛立ちと警戒心が混ざっていた。だが、ヴィエナはその言葉にも動じず、むしろ微笑みを浮かべながら静かに応じる。
「怖いんですね……。」
その一言が、室内の空気をさらに張り詰めさせる。アイクとゴードンは同時に反応し、声を重ねる。
「なに?」
ヴィエナは冷ややかな笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「傷モノになった危機管理ができない、その伯爵令嬢に負けるのが。」
彼女の言葉は鋭く、まるで刃のように相手の心を突き刺す。室内には緊張が走り、誰もが息を呑む。アイクの表情は険しくなり、拳をさらに強く握りしめる。
「アイク様、あなたとリリア嬢でしたっけ? 二人だったら勝てると言いましたよね? 『言葉にしたことは、行動で示すべき』ではありませんか?」
ヴィエナの言葉は、まるで挑戦状のように響く。アイクは悔しさを滲ませながら、歯を食いしばる。
「くっ……。」
ヴィエナはさらに畳みかけるように言葉を紡ぐ。
「逃げるならそれでも良いですが……」
「なんだと?」
「負けるのが怖いので勝負はやめておきます、とおっしゃっていただけますか?」
彼女の覚悟と自信に満ちた態度に、さっきまで不安そうだったダニエル公爵も拳を強く握りしめ、決意を新たにする。
「アルバート家が尻尾を巻いて逃げるとは思わなかったなぁ。いやぁ、残念だ。」
彼の言葉は皮肉と挑発に満ちており、室内の緊張感をさらに高める。ゴードン公とアイクは悔しそうな表情を浮かべ、互いに顔を見合わせる。二人の視線が交差し、無言のうちに意志を確認し合う。そして、ゴードン公が低く、しかし力強い声で答える。
「分かった。その勝負、受けようじゃないか。」
アイクも力強く頷き、決意を示す。
「お前たちこそ、途中で逃げるなんて許されないからな。」
ヴィエナは微笑みながら一礼し、静かに宣言する。
「ありがとうございます。では、明日から二ヶ月間の勝負とします。条件は新規の商業を立ち上げる事。最終日に立ち上げた商業で、どちらがより多くの富を得たかで勝敗を決めましょう。」
彼女の言葉に、室内の全員が覚悟を決めた表情を見せる。これから始まる熾烈な競争に向けて、それぞれの胸には燃え上がる闘志が宿っていた。
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アルバート領を後にし、ウェルナー家とヴィエナ一行は新たな戦いへの鼓動を胸に歩み出した。
荒野の風が、これからの熾烈な商戦の予感を運んでくる。途中、ダニエルが誇らしげに声を張り上げる。
「よし、ここまできたらやってやろうじゃないか!」
彼の中には公爵家としての誇りと覚悟、そして騎士業で富を築いた男として、農村で発展したアルバート家へのプライドがあった。
その熱意に応えるように、エドガーがにっこりと笑いながら「ですね!父さん。騎士一族としての力を見せてやりましょう。」と答えた。
ダニエルはさらにヴィエナに視線を向け、
「ヴィエナ嬢、凄い自信で本当にかっこよかったぞ。何か良い案を思いついたんだな!」と称賛の言葉を投げかける。
一瞬の静寂の後、ヴィエナは柔らかい笑みを浮かべながらも、冷静な口調で答えた。
「いえ?まだ何も思いついていませんが……今から考えます」
「う、うそだろ?」
その言葉に、同行する一同は驚きとともに、恐怖と不安が押し寄せてきた。
「負けたら、一部の領地や商業を取られてしまうんだぞ?」
「ええ、だから勝ちますわ」
ヴィエナはそう遠くを見つめてつぶやいた。
風がそっと頬を撫で、遠くに見える新市場の灯りが未来への扉を示すかのように。




