第035話 ぬるい
毎日投稿継続中(36日目)
新連載は本日も投稿
白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?
こちらは土日は休みとなります。
ヴィエナが変装を解いた瞬間、室内の空気が一変した。
「……お久しぶりです。アイク様」
堂々と顔を上げた彼女の瞳には、かつてとは違う強い光が宿っている。
アイクの表情がわずかに揺らぐ。
「……ヴィエナ……?」
彼は低く呟いたが、その声には動揺が滲んでいた。
静寂を破ったのは、ゴードン公だった。
「どういうことだ? なぜエムリット家の娘がここにいる?」
その問いに対し、ダニエル公が余裕の笑みを浮かべる。
「言葉通りの意味だ。ウェルナー領躍進の恩人として、このお茶会に招いたまでのこと」
ダニエル公の言葉に、ゴードン公は目を細めた。
「恩人だと?」
「ああ、そうだ」
ダニエル公は上機嫌に微笑む。
「ウェルナー領で新たな商業を確立をしたヴィエナ嬢だ」
室内がざわめいた。
「そんな……!」
驚きに目を見開いたのは、アイクだった。
「君が……ウェルナー領の発展に関わっていたというのか?」
ヴィエナは冷静に頷く。
「ええ。アルバート領を越える為に、必要とされたので私は力を尽くしました」
その言葉に、アイクは強く歯を噛みしめる。
「ふざけんな、」
「元婚約者の領地に歯向かうなど、ありえないだろ」
アイクが詰め寄ろうとしたその瞬間、エドガーがさりげなく前に出てヴィエナを庇う。
「そこまでにしていただけますか?」
エドガーの冷静な声が室内に響く。
「ヴィエナ嬢は、貴方に不義理を伝えにここへ来たわけではありません」
「……!」
アイクは拳を握りしめる。
「ヴィエナ嬢は、貴方が手放したあと、己の力で道を切り開いた。その結果、ウェルナー家と共同で商業を始めた。……それだけのことでは?」
エドガーの言葉に、室内の空気が張り詰める。
ゴードン公が苛立たしげに舌打ちした。
「貴様ら、アルバート家を侮辱するためにここへ来たのか?」
すると、ダニエル公が朗らかに笑った。
「まさか。これはただのお茶会ですよ、ゴードン殿」
彼は優雅にワインを傾ける。
ゴードン公は、鋭い目つきでアイクを見た。
「おい、お前とリリア嬢がいれば、この小娘とウェルナー領を追い抜くことができるか?」
アイクは自信たっぷりに頷いた。
「ええ、父さん。間違いないでしょう」
彼はヴィエナとウェルナー家を嘲るように言葉を続ける。「ウェルナー領の人間は頭が弱いですから、あとは危機管理も出来ず傷モノになるような女ですよ」
ゴードン公は豪快に笑い声を上げた。
「ははははは! それもそうだ!」
しかし、その軽蔑的な笑いが終わるよりも早く——
「貴様ら、痛い目を見るぞ」
ダニエル公の声が、室内に重く響いた。
その表情は怒りに満ち、手にしていたワイングラスを強く握りしめている。
アイクは鼻で笑う。
「痛い目を見るのはそちらでは?」
「だったら、次に起こす商業で勝負しようじゃないか」
ゴードン公が薄ら笑いを浮かべ、挑戦を叩きつける。
「ふん、いいだろう」
ダニエル公は言葉と裏腹に、視線は微かに揺らいでいた。
——ウェルナー領がここまで急成長したのは、ヴィエナの手腕があったからこそ。
それを知っているダニエル公は、自信満々なように見えて内心、勝負に不安を感じていた。
「ヴィエナ嬢も協力してくれるか?」
ダニエル公が問う。
ヴィエナは何も言わず、悩んだ表情で静かに視線を落とす。
「……」
少しの間沈黙が続いたが、ゴードン公が破った。
「期限は二ヶ月。負けた領地は二度と相手に逆らわず、地に額ずき謝罪するというのはどうだ?」
「それだけだと面白くありません」
ヴィエナがふっと笑った。
「……?」
その場にいた全員が、彼女の発言に疑問を抱く。
ヴィエナは静かに続けた。
「負けた方は、商業と一部の領地を相手に差し出しましょう」
一瞬、室内が静まり返った。
——正気か?
誰もがそう思った。
アイクが眉をひそめる。
「お前……本気で言っているのか?」
エドガーもアイク同様に感じていた。
「そ、それは流石にやりすぎでは…」
ヴィエナは涼しげな表情のまま、宣言する。
「私たちが負けたら、香水業と香草の栽培地、そして沿岸地域の真珠業も差し上げますわ」
ダニエル公が目を見開いた。
「ヴィエナ嬢……?」
「そして、貴方達が負けた場合——農地の一部をエムリット領に差し出してください」
その瞬間、誰もが息を呑んだ。
ウェルナー家とアルバート家の皆は動揺を隠せない。




