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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
35/75

第034話 再会

毎日投稿継続中(35日目)

 

新連載の白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?

こちらは平日投稿予定です。

本日も更新されてるので、読んで頂けるとうれしいです

お茶会当日、ヴィエナと護衛のロットは、アルバート領前に到着した。そこには、ウェルナー公爵家のダニエルとエドガーが待っており、四方の厳かな雰囲気が漂っていた。


「やあヴィエナ、いよいよだね」とエドガーが穏やかに声をかけると、ヴィエナは感慨深い表現で答えた。

「ええ、この機会を頂き、誠にありがとうございます」


ヴィエナは、正体が露見しないよう、さりげなく変装して館へ入った。彼女は、普段の凛とした姿を保ちつつも、少しだけ髪に花飾りをつけ、柔らかなメイクで目元を和らげていた。その変装も、令嬢としての上品さを損なわない程度に控えめであった。


館の玄関前で、衛兵が静かに声をかけた。

「ウェルナー公爵家様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

案内に従い、広大な敷地内を進む。

庭園には季節の花々が咲き誇り、噴水の水音が心地よく響いている。


――そして

案内された先に現れた男の顔をヴィエナは忘れもしなかった。

 

「はるばるお越し頂き、ありがとうございます。奥で父がお待ちです」


(アイク様……)

ヴィエナはアイクに露見しないよう声を漏らさず、俯いて部屋に入った。


部屋に入ると、そこは異様な雰囲気でピリついた空気が漂い、ダニエル公爵が厳かな声で話し始めた。

「これはこれは、ゴードン殿……まだしぶとく生きていらっしゃるとは」


「ダニエル殿、相変わらず醜い顔ですね」

ゴードン公がダニエル公の皮肉に言葉を返した。

 

「な、なによこの関係……仲が悪すぎる」

その発言に、ヴィエナは心の中で戸惑い、俯いたまま話を聞いていた。

アルバート家とウェルナー家の長年の険悪な関係で、

騎士業で富を築いたウェルナー家と、広大な農地で発展したアルバート家――性格も目的も正反対という背景が、自然と二家の対立を際立たせていた。


「戦う事しか頭にないダニエル殿がお茶会の提案をしてくるとは、珍しい」ゴードンが苦笑い交じりに問いかける。


ダニエルは余裕の笑みを浮かべながら、ゆったりとした口調で言った。

「長年、騎士業でやってきましたが、最近香水を当てましてね。おかげで、アルバート家よりもずっと上の存在になってしまいました」


ゴードンの顔が一瞬歪む。

「くっ……」


悔しさを滲ませながらも、必死に平静を保とうとする彼の様子を見て、ダニエルはさらに追い打ちをかけるように続けた。

「香水は息子たちが思いつきましてね。全く誇りの息子です」

そう言って、まるで自慢するように誇らしげな表情を浮かべる。

「ところで、息子のアイク殿は何かしましたか?」


ダニエルの言葉が響くと、場が一瞬静まり返る。ヴィエナは息を呑んだ。

(な、なんてやり取りなの……。入る隙がない)


しかし、沈黙を破ったのはアイクだった。余裕の笑みを浮かべながら、軽く肩をすくめる。

「気にすることはないですよ、父上。一時的にアルバート家を超えたことが、よほど嬉しかったのでしょう」


彼はわざとらしくため息をついた後、続けた。

「ですが、頭が悪いので、何もしなくても、すぐに落ちるかと思います」


「そ、そうだな」ゴードンは咳払いをしながら頷く。「お前も妻のリリア嬢も頭が切れるからな。何も心配していないぞ」


(アイク様、結婚してたのね……)


ヴィエナは心の中で驚きながら、視線を向ける。そこにはアイクの隣に立つ、端正な顔立ちの女性——リリアの姿があった。


(あれがアイク様の妻のリリア嬢……?)


彼女が思考を巡らせている間にも、アイクは淡々とした口調で続ける。

「はい。前の婚約者とは違い、女性ながら聡明で腕が立ちます」


ヴィエナの心の奥で何かが軋む音がした。

(なんですって……?)


その言葉に、エドガーが口を開く。

「ほう、前の婚約者とは……エムリット領の?」


アイクは口元に笑みを浮かべ、まるで面白い冗談でも語るように答えた。

「よくご存知ですね。本当に良いタイミングで傷モノになってくれました。リリアと出会ってから婚約破棄をしたくても、簡単にはできなかったので……。だから、あの出来事は婚約破棄する良い理由になりましたよ」


その瞬間、場の空気が凍りついた。ダニエルもエドガーも、護衛のロットすらも、思わずヴィエナの様子を伺う。


「……そうだったんですね」


ヴィエナは静かに呟いたが、抑えていた感情が限界を迎えた。


エドガーは静かに立ち上がり、ゆっくりとアイクを見据える。

「アイク殿、先程『今の妻は聡明で腕が立つ』と仰いましたね?」


アイクが不機嫌そうに視線を向けると、エドガーは続ける。

「しかし、アルバート家を超えた理由は——ここにいる女性、エムリット伯爵家のヴィエナ嬢が成し遂げたものなのですが?」


その言葉とともに、ヴィエナは静かに手を伸ばし、変装を解いた。


淡々とした口調だったが、その瞳には、かつてとは違う強い光が宿っていた。


そして、場の空気が一層高まる中、ヴィエナは堂々と顔を上げた。

「お久しぶりです。アイク様」

その瞬間、会場は静まり返りかえった。


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