第034話 再会
毎日投稿継続中(35日目)
新連載の白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?
こちらは平日投稿予定です。
本日も更新されてるので、読んで頂けるとうれしいです
お茶会当日、ヴィエナと護衛のロットは、アルバート領前に到着した。そこには、ウェルナー公爵家のダニエルとエドガーが待っており、四方の厳かな雰囲気が漂っていた。
「やあヴィエナ、いよいよだね」とエドガーが穏やかに声をかけると、ヴィエナは感慨深い表現で答えた。
「ええ、この機会を頂き、誠にありがとうございます」
ヴィエナは、正体が露見しないよう、さりげなく変装して館へ入った。彼女は、普段の凛とした姿を保ちつつも、少しだけ髪に花飾りをつけ、柔らかなメイクで目元を和らげていた。その変装も、令嬢としての上品さを損なわない程度に控えめであった。
館の玄関前で、衛兵が静かに声をかけた。
「ウェルナー公爵家様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
案内に従い、広大な敷地内を進む。
庭園には季節の花々が咲き誇り、噴水の水音が心地よく響いている。
――そして
案内された先に現れた男の顔をヴィエナは忘れもしなかった。
「はるばるお越し頂き、ありがとうございます。奥で父がお待ちです」
(アイク様……)
ヴィエナはアイクに露見しないよう声を漏らさず、俯いて部屋に入った。
部屋に入ると、そこは異様な雰囲気でピリついた空気が漂い、ダニエル公爵が厳かな声で話し始めた。
「これはこれは、ゴードン殿……まだしぶとく生きていらっしゃるとは」
「ダニエル殿、相変わらず醜い顔ですね」
ゴードン公がダニエル公の皮肉に言葉を返した。
「な、なによこの関係……仲が悪すぎる」
その発言に、ヴィエナは心の中で戸惑い、俯いたまま話を聞いていた。
アルバート家とウェルナー家の長年の険悪な関係で、
騎士業で富を築いたウェルナー家と、広大な農地で発展したアルバート家――性格も目的も正反対という背景が、自然と二家の対立を際立たせていた。
「戦う事しか頭にないダニエル殿がお茶会の提案をしてくるとは、珍しい」ゴードンが苦笑い交じりに問いかける。
ダニエルは余裕の笑みを浮かべながら、ゆったりとした口調で言った。
「長年、騎士業でやってきましたが、最近香水を当てましてね。おかげで、アルバート家よりもずっと上の存在になってしまいました」
ゴードンの顔が一瞬歪む。
「くっ……」
悔しさを滲ませながらも、必死に平静を保とうとする彼の様子を見て、ダニエルはさらに追い打ちをかけるように続けた。
「香水は息子たちが思いつきましてね。全く誇りの息子です」
そう言って、まるで自慢するように誇らしげな表情を浮かべる。
「ところで、息子のアイク殿は何かしましたか?」
ダニエルの言葉が響くと、場が一瞬静まり返る。ヴィエナは息を呑んだ。
(な、なんてやり取りなの……。入る隙がない)
しかし、沈黙を破ったのはアイクだった。余裕の笑みを浮かべながら、軽く肩をすくめる。
「気にすることはないですよ、父上。一時的にアルバート家を超えたことが、よほど嬉しかったのでしょう」
彼はわざとらしくため息をついた後、続けた。
「ですが、頭が悪いので、何もしなくても、すぐに落ちるかと思います」
「そ、そうだな」ゴードンは咳払いをしながら頷く。「お前も妻のリリア嬢も頭が切れるからな。何も心配していないぞ」
(アイク様、結婚してたのね……)
ヴィエナは心の中で驚きながら、視線を向ける。そこにはアイクの隣に立つ、端正な顔立ちの女性——リリアの姿があった。
(あれがアイク様の妻のリリア嬢……?)
彼女が思考を巡らせている間にも、アイクは淡々とした口調で続ける。
「はい。前の婚約者とは違い、女性ながら聡明で腕が立ちます」
ヴィエナの心の奥で何かが軋む音がした。
(なんですって……?)
その言葉に、エドガーが口を開く。
「ほう、前の婚約者とは……エムリット領の?」
アイクは口元に笑みを浮かべ、まるで面白い冗談でも語るように答えた。
「よくご存知ですね。本当に良いタイミングで傷モノになってくれました。リリアと出会ってから婚約破棄をしたくても、簡単にはできなかったので……。だから、あの出来事は婚約破棄する良い理由になりましたよ」
その瞬間、場の空気が凍りついた。ダニエルもエドガーも、護衛のロットすらも、思わずヴィエナの様子を伺う。
「……そうだったんですね」
ヴィエナは静かに呟いたが、抑えていた感情が限界を迎えた。
エドガーは静かに立ち上がり、ゆっくりとアイクを見据える。
「アイク殿、先程『今の妻は聡明で腕が立つ』と仰いましたね?」
アイクが不機嫌そうに視線を向けると、エドガーは続ける。
「しかし、アルバート家を超えた理由は——ここにいる女性、エムリット伯爵家のヴィエナ嬢が成し遂げたものなのですが?」
その言葉とともに、ヴィエナは静かに手を伸ばし、変装を解いた。
淡々とした口調だったが、その瞳には、かつてとは違う強い光が宿っていた。
そして、場の空気が一層高まる中、ヴィエナは堂々と顔を上げた。
「お久しぶりです。アイク様」
その瞬間、会場は静まり返りかえった。




