15話:イレギュラーと対処不能
俺たちが森林を抜けると、そこには廃鉱山があった。ここは今回の依頼のターゲットである金ゴーレムの出る場所だ。
ちなみにゴーレムとは素材や大きさによって脅威度が設定されている。今回のターゲットである金ゴーレムはB級モンスターで、大きさ約2mの普通サイズのゴーレムだ。
この高難易度の依頼は俺達の昇級だけじゃなくて、アレンたちのB級冒険者に上がるための試験も兼ねている。
「そっちに何体かアイアンゴーレムが行ったぞ!」
アレンたちは、流石は希少級になったといえるほどの奮戦でシルバーゴーレム複数と戦いながら、俺とアンリに忠告してくる。
その忠告通り、アイアンゴーレムは4体ほどこちらに向かって来た。
「アンリ! 一体だけ任せられるか?」
アイアンゴーレムはD級モンスターで、アンリでは少し荷が重いだろう。だが、無茶をしなければ成長は出来ない。俺はアンリのためにもそう言ったのだ。
「任せときなさい!」
アンリがそう言って、アイアンゴーレム一体に向かっていくのを横目で確認すると、俺も目の前の敵に専念することにした。
ゴーレムの数は3体。本気を出せば瞬殺だろう。だが、ネオの実力でいえば苦戦する。だから、俺は演技をすることにした。
ゴーレムは俺に向かって腕を振り下ろす。その攻撃を槍で受け止めずに避ける。
ズドン、と俺に当たるはずだった拳が地面に空振りし、ゴーレムに隙が出来る。そこに槍で切りかかる。
槍の一撃はゴーレムを少し切り裂いただけだった。その瞬間、他のゴーレムからの攻撃が俺の横腹に当る。
「ごはぁ」
対処しようと思えば出来たが、その攻撃をわざと受けた俺は、数メートル殴り飛ばされた。そして、地面を転がる。
「ネオ! 大丈夫?」
気付けば目の前には、アンリが居た。……あれ、なんでここに居るんだ? アイアンゴーレムはどうしたんだ? と、俺は疑問に思い、アンリの戦っていたアイアンゴーレムの方を見ると、そこには一撃で胸を穿たれているゴーレムの残骸があった。
「なっ!! アイアンゴーレムを倒したのかい?」
俺が驚いていると、アンリはドヤ顔をする。
「喋れるってことは大丈夫そうね……それに、何故か今日は調子がいいのよ」
(いや、調子がいいって問題じゃないだろ……)
アンリと話していると、俺が戦っていたゴーレムたちがアンリに襲い掛かってきた。
「あぶない!!」
ゴーレムの拳が当たりそうになる瞬間、アンリは槍を横に振り、ゴーレムたちを両断した。そこには昨日までと比べたら段違いの魔力操作で、槍に魔力を纏わせているアンリの姿があった。
(なに!? 昨日、訓練した時よりも魔力制御が数段以上、上がってる? あり得ないだろ、天才だとしても一日でここまで成長することは出来ない……つまり、何かしら要因があったということだ……もしかして、『原初の魂源』の力なのか?)
俺は昨日合った出来事を思い出し、ペトラに攫われた時のことを思い出す。
「さっき殴られていたみたいだけど、怪我はない?」
思考をしていると、アンリが倒れている俺に手を差し伸べて、声を掛けてきた。
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
俺はアンリの手を取り、立ち上がった。
「おーい、大丈夫だったか?」
すると、シルバーゴーレムを倒したアレンたちも、俺の方へ駆け寄ってきた。
「ええ、大丈夫よ」「ああ、大丈夫だ」
俺達の方へやって来たアレンたちは、周りを見渡すと、アイアンゴーレムが一撃で倒されているのを見て驚いた。
「これは魔力操作Bくらいのステータスが無いと、出来ない芸当だろう」「これはいったい誰が?
」「私たちでも、魔法無しでは一撃で倒すのは厳しいでしょうね」「凄い……」
みんながそれぞれ驚いている。それよりも俺は気になった言葉が一つあった。
「ステータス?」
この世界には存在しないはずの言葉に疑問を隠せず、アレンたちに聞き返してしまった。
「あー、気にしないでくれ……ところで、これはネオがやったのかい?」
アレンは俺の質問にとぼけると、アイアンゴーレムを俺がやったのか?と聞いてくる。
「いや、俺じゃないよ……アンリがやったんだ」
その言葉にアレンたちはさらに驚いた。
「「「な!!」」」
その驚きようを見て、アンリはドヤ顔をする。
「凄いでしょ! これで私も足を引っ張らないわ」
そして、アレンたちは何かを考え込んだ。
「……FO時代のアンリは別に才能値が高いわけではなかった……そして、昨日までのアンリはほとんど戦闘が出来ないほどにステータスは育ってなかった……つまり、考えられるのは一つだ、『原初の魂源』の力が強まっている……だが、何故だ?」
アレンは小言で何かを呟いたが、その声は俺には聞こえなかった。
アレンが思考をしていると、ゴホン、とメリッサが咳ばらいをする。
「そんなことよりも、凄いじゃない! アンリ! 流石だわ」「そうだな! 凄いぞアンリ」「ネオはこのPTで一番下」「ああ、アンリは凄いな」
メリッサがアンリのことを褒めると、それに続いてボブ、キャロ、アレンが続いてアンリを褒めた。いや、キャロだけは俺に毒を吐いていたが……
「そうでしょ! 今日は調子がいいのよね」
アンリは薄い胸を張って誇らしげにする。この一週間の間、戦闘で役に立っていなかったから、褒められて嬉しいのだろう。
だが、俺はそれよりもさっきは途中で遮られて、聞けなかったことが一つあり、それをもう一度、アレンに質問をする。
「ところで、アレンがさっき言っていたステータスって何のことだ?」
だが、俺の質問にアレンはおどおどして、メリッサの方を見る。
「えっと、それは――「ネオ! 後ろを見てみろ!」
アレンに質問をしていた俺だが、ボブに忠告され、後ろを見る。
すると、そこには魔法銀ゴーレムが居た。
2mほどの身体を持ち、その身体は銀色に光り輝き、魔力がその身から溢れ出ている。
(やばい、ネオの時は魔力探知を出来ないから気づかなかった……それよりも、)
「何故、ここにミスリルゴーレムが居るんだ?」
俺が疑問の声を上げる。
「ミスリルゴーレムだと?」
「おいおい、イレギュラーの登場かよ」
本来、この廃鉱山には生息しないミスリルゴーレムの出現に、俺に続いて、アレンとボブも驚愕を隠せないで呟いた。
「そんなことよりも、逃げなきゃでしょ!」
「退却する」
「ねぇ? ミスリルゴーレムって何?」
ミスリルゴーレムはA級でも上位のモンスターだ。しかも、その身体はミスリルで出来ていて固く、負の魔力をたくさん纏っているという性質上、魔法も効きにくく、物理攻撃も効きにくいので、倒すのは困難だ。
そんなミスリルゴーレムの出現に、メリッサとキャロは冷静に撤退の判断をして、それを知らないアンリは疑問を抱く。
だが、ミスリルゴーレムは俺たちのすぐそばまで迫っていた。
「ネオ! 危ない!」
一番近くに居た俺にミスリルゴーレムの拳が迫ってくる。
(アレンたちじゃ、このゴーレムは倒すことが出来ない……どうする、本気を出すか?…………いや、いいことを考えた……このまま殴られよう)
俺は一瞬で思考を巡らせると、いい策を思い付き、ミスリルゴーレムの拳を受け入れることにした。
ドゴン、とゴーレムの拳が俺の体に当たり、鈍い音が周囲に響き渡る。
そして、俺は凄まじい勢いで、廃鉱山から森林の方へ数十メートル飛ばされる。
何回も地面にバウンドをし、木に当たり、木をなぎ倒していくが、その勢いは衰えず森林の奥へ吹き飛ばされていった。
「ネオ!!」
アンリの声が周囲に響いた。




