7話:闇に潜む者
月光が木によって遮られ、光の届かない暗い森林の中に、一人の男と、無音の殺戮者の隊長が密会をしていた。
男の名前はペトラ・ハンデンベルク、帝国の貴族であり、帝国軍第0魔法戦団、通称、零団のメンバーの一人だ。
「これが、『原初の魂源』の持ち主か……」
「はい、さようでございます」
ペトラが意識を失っているアンリの頬を撫でる。
「俺はこいつを先に帝国領に運んでおくから隠蔽工作は頼んだぞ、もし何かあればすぐに俺に連絡しろ」
「はい、承知致しました」
ペトラの言葉に隊長は、仰々しく頷いた。
無音の殺戮者の隊長であるはずの男が、こんなにも下手に出ているのは理由がある。零団のメンバーは、一人一人がそれぞれの部隊の隊長以上の力と権力を持っているためだ。
そして、ペトラも帝国でも有数の権力者であり、実力者である。
ペトラはアンリを背負うと、魔法を使い、森林の奥に消えていった。
隊長はペトラが行ったのを確認すると、顔を上げて無音の殺戮者のメンバーたちを呼んだ。
「部隊の半分は隠蔽作業だ。もう半分はペトラ様に着いていき、先に帝国領に戻っていろ」
「「「了解」」」」
隊長の言葉を聞いて、メンバーたちは各自行動を開始した。
他の者たちが散るのを確認すると、隊長も行動を開始しようとした。その時、メンバーの一人が目の前に来た。
「隊長、報告です。あちらの森林の奥の方で仲間の死体を見つけました」
「了解した……ところで、お前は何者だ?」
ローブを被っているため、顔はわからないが女性らしき声の女に問いかけた。
「私は無音の殺戮者のメンバーですが?」
「では、コードネームはなんだ?」
「……」
女は隊長の言葉に無言になる。そして、次の瞬間、ローブから細剣を取り出して、隊長に切りかかった。
暗い森林に閃光が走る。
無詠唱で雷を纏ったその一撃は、凄まじいほどに鋭く速い。
しかし、隊長は首を逸らして、ギリギリでその攻撃を躱す。
女はそのまま追撃しようとしたが、隊長が後ろに下がった。
「……いやぁ~、なかなかやるね」
「貴様は誰だ?」
隊長は、帝国の特殊部隊の隊長である自身に、匹敵するか、それ以上の実力を持つ女を警戒した。
「うーん、まあ、どうせ君たちはここで死ぬんだし、いっか……私はセレス・アルゲース、知ってるでしょ? 侵入者さん」
「迅雷か……何故こんな場所にいるのだ?」
セレスの言葉に男は驚愕した。王国でも有数の実力者であり、このアルゲース伯爵領の現当主である、『迅雷』のセレスは有名人だ。
「それは、君たちが私の領に侵入したからに決まってるじゃん」
「そういうことではない、何故、私たちの侵入を感知することが出来たのだ?」
「教えなーい。そんなことよりも、なんで私が偽物だってわかったの?」
セレスが隊長に問いかけた。
「無音の殺戮者では、コードネームで呼び合う決まりになっている。だが、貴様は、私のことをコードネームじゃなくて、隊長と呼んだ」
「なるほどね、ついうっかりしちゃったな……そうだよね、『無音』さんって呼べばよかったわけか」
「貴様……それをどこで聞いた?」
セレスが自分のコードネームを知っていることに、無音は驚愕した。
「質問多すぎて飽きたから、答えないよ~」
「貴様! 絶対に殺す!」
煽られて、無音は激高した。
「そんなに怒らないでよ……君程度じゃ、私は殺せないよ?」
「舐めるなよ……私は伝説級魔法師で貴様と同等だ、さらに無音の殺戮者のメンバーは全て、特別級魔法師以上で構成されている……」
帝国の精鋭中の精鋭である、自分の方が有利だと無音は言った。
「へ~それは凄いね……ところで、君の仲間たちはどこに居ると思う?」
セレスの言葉に、無音は疑問が浮かんだ。何故、セレスと話して時間が経つのに仲間たちは戻ってこないのかと、
「貴様、仲間たちをどこにやった?」
「私は一人でここに来たなんて言ってないよ?」
セレスがそう言うと、森林の中から四人の影が飛び出してきた。
「セレス様、周りの敵は殲滅いたしました」
「おー早かったね、ご苦労様、じゃあ後はこいつだけだね」
その言葉を聞いて、無音は冗談だと思った。
ここの周辺には、無音の殺戮者のメンバーは半分とはいえ、全員が特別級魔法師。それに十数人はいる、それを殲滅するなんて不可能だ。
「嘘を吐くな、俺たちは帝国の精鋭で、全員が特別級魔法師以上だぞ? 弱小の王国側の戦力じゃ対応は不可能だ」
「わ~凄いね、特別級魔法師を部隊で揃えるなんて……でも私たち、『闇に潜む者』のメンバーは、全員が伝説級魔法師以上だよ? ここにいる四人だってそう」
「な、なんだと? 全員が伝説級魔法師と言ったら、帝国最強の零団と同等の戦力だぞ……あり得ない、王国側はそこまで魔法師の育成に力を入れていないはずだ」
セレスの言葉に、無音はあり得ないと言う。それもそうだ、王国は帝国よりも人口は少なく、国土も狭い。しかも、貴族の階級意識が強く、魔法師の育成はなかなか上手くいっていないはずであり、伝説級魔法師の数が少ない。
「『闇に潜む者』は、最近になってから、魔法師を育て上げて作った組織だからね……君たちが知らなくてもしょうがないよ」
無音は喉をゴクリと鳴らした。セレスの言葉が本当なら、逃げられないという現実を知ったからだ。
「私を殺すつもりか?」
「そうだよ」
「……だが、ここで私と戦闘をしていたら、先に原初の魂源を連れて、帝国に向かっているものたちに追いつけないぞ……」
無音は、なんとか逃れるために言い訳をする。
「それは大丈夫!……だってもう一人がそちらに対応しているからね」
「一人で『無音の殺戮者』のメンバー半分と、私以上に強いお方を相手にすることは不可能だ」
ペトラは零団のメンバーで、伝説級魔法師でも最上位の力を持っているし、その周りには無音の殺戮者、残り半分の十数人の特別級魔法がいる。
「うーん、でもなんとかなるよ……今のクオンは私以上に強いし」
「貴様より強いだと?……冗談はよせ、俺と同じく伝説級魔法師の貴様よりも強い奴など王国に何人いるというのだ……」
しかも、セレスと無音は、特に近距離戦に強いため隙が無く、伝説級の中でも強い部類に入るだろう。
「クオンはもっと強いよ……ていうか、君と同じにしないでくれるかな?」
「どういうことだ……」
無音が疑問に思っていると、セレスは魔力を高めていった。
膨大な魔力に、空気が震える。
そして、どんどん魔力は高まっていった。
明かに伝説級以上の魔力を持っている。
「馬鹿な……なんだこの魔力は、明らかに伝説級を超えている」
「君と同じにしてほしくないって言うのは、こういうことだよ」
セレスの身体から、青白い雷のような魔力が迸る。
「貴様は、伝説級のはずだろう……」
表向きは、セレス・アルゲースは王国でも有名な伝説級魔法師だ。
「いつまでも私が成長しないわけないでしょ? 今の私が神話級魔法師だからね……でももっと強くならなければならないのだけど……」
「なんだと!? いつ神話級になったのだ……」
「もう、話し合いはやめるね」
セレスは細剣を構えて、魔力を高める。
「ま、待て!」
無音が静止の言葉をかけるが、セレスは魔法を使い攻撃をした。
数百メートルにもなる蒼白い雷が森林を包む。
暗い森林が雷光により煌めいた。
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