26話:メラレーンの臍
メラレーンの臍に俺は、精鋭部隊である各属性の希少級魔法師以上の王国軍人約60人と地の普通級魔法を使える魔法師の30人ほどの合計90人で着ていた。その後ろには2000人ほどの王国兵がいた。戦争が始まる前は6000人以上いたが大半が死んでしまったらしい。どうやらメラレーン戦線の王国軍はもう後がないらしいな
メラレーンの臍は地面が盛り上がっていて、地上から100mほどある高い大地になっている。
想像以上の高さだ。もはや岩ではなく一つの小さな山のようだ。
「急いで登りましょう。そして、反対側に帝国兵が待ち伏せしている可能性が高いので、頂上に着いたら気を付けてください」
セレス少将の指示を聞くと先頭にいる俺と約90人の軍人たちが大地を登り始める。
斜面になっていて、足場も岩で登りにくいが、身体強化を使える俺と軍人たちは直ぐに頂上まで登っていった。
数分のうちに崖の上に着いた。
だが、崖の上は思いの外静かだった。数百メートルの平らな地面が続いている。
「待ち伏せは無しですか、それに攻撃はないですね……」
「セレス少将! どう致しますか?」
軍人の言葉にセレスは少し考えた。
「……なるほど……エリザベス中将が昨日言って来たのはこういうことだったのですね……フェール大将はここまで読んでいたと、では乗るしかないですねこの作戦」
小声で何か呟いた後に軍人たちに指示を出した。
「地魔法を使えるものは崖を囲うように壁を作り出してください。そして精鋭部隊の半分は地の魔法師の護衛を、残りの半分は下にいる軍人たちや奴隷兵を上に連れてきてください」
――――
俺は下にいる人たちを連れて行く係になった。
その途中オーウェン大尉に話しかけられる。だが何故かいつもよりも雰囲気が暗い。
「あなたにとって人生とはなんですか?」
その質問はとても深い質問だ。
人生とは何か今まで考えたことがなかった。
それはそうだろう、俺は今まで適当に生きてきたのだから、流されて生きてきたのだから。
だが、最近になって少し考えるようになってきた。奴隷だった当初は嫌なこともたくさんあった、だがそのあとのダンジョン生活では刺激のある体験が出来た、そして仲間が出来た、俺のことを好きになってくれる美少女も出来た、同時に仲間を失った、悲しみを知った。だが今はルーイのおかげでその後悔も少しは薄れている。それにこれから奴隷から解放されたら未知の異世界をもっと冒険したい。
「俺にとって人生とは……」「――クオンここにいたんですね」
後ろから声をかけられたので、後ろを振り向くルーイがそこにいた。
ルーイはそのまま走ってくると俺に抱き着いてくる。
「クオン、誰かと話してたんですか?」
ルーイが俺に尋ねる。
そうだ、オーウェン大尉の質問に答えなければ。
「……あれ? どこに行ったんだ?」
だが、そこにはオーウェン大尉は居なかった。
――――
『フラン、そちらの状況はどうだ?』
通信機の魔道具から若い男の声が聞こえる。
「こちらは大丈夫です。これから作戦を開始したいと思います」
フランが若い男の声に答える。
『期待しているぞ』
「はい、任せてください……王国兵を一人も逃さずに殲滅してみせます」
そう答えるフランの周りにはたいまつも付けずに、森林の闇に紛れる男たちがたくさんいた。
「総隊長。王国側が上に登り切ったそうです」
帝国兵の一人が王国兵たちが全員、メラレーンの臍に登り切ったことを報告する。
「了解だ」
「しかし良かったのですか? 防壁を作らせても」
帝国兵の言い分ももっともだろう。防壁を作らせる前に攻撃することも出来たはずだ。
「王国側はなんでか知らないけど、頂上に基地を作ることにしたらしい。それなら防壁を作る前に攻撃をして逃げられるよりも、防壁を作って逆に逃げずらい状態を作ってから、魔法で一網打尽にすればいい。どうやら王国側は俺の魔法の恐ろしさを知らないらしいしな」
「なるほど」
フランはまるで王国側の状況を知っているような言い方をした。
「ところ援軍の魔法師たちはどうなった?」
「待機場所に配置済みです」
「では、全隊に作戦開始を伝えろ。殲滅開始だ」
フランの号令を聞いて、帝国の魔法師たちが一斉に詠唱を始めた。




