22話:強さと後悔
白い男が帝国兵の首を切り飛ばしていく。あまりの速さに帝国兵たちは反応が出来ていないようだった。
一人、また一人とどんどん数が減っていく。
「出たぞ! 白迅の悪魔だ。にげ……」ズバッと小隊長の首が飛んだ。
「小隊長がやられたぞ! 逃げろ」
帝国兵たちが逃げ始める。
「逃がすわけないだろ――加速」
白い男は加速して、逃げ惑う帝国兵の首を飛ばしていく。
木と木の間を高速で飛び周る。
圧倒的なスピードで攻撃してくる白い男を相手に、帝国兵は反撃を当てることすら出来なかった。
そして、数分もしないうちに100人ほどの死体の山が出来ていた。
白い男の槍や身体からは帝国兵たちの血が滴り落ちる。
「……俺はまだまだ弱い」
霞むほどの高速で動き回り、白い髪を靡かせ、白い槍を振るい、まるで悪魔のように帝国兵を刈り取っていく。帝国兵からは『白迅の悪魔』の呼ばれる男が呟いた。
けして男は弱くは無かった。だがその力に満足をしていなかった。
――――
昨日のことだ。
俺はセトとの戦いが終わり、邪魔をする帝国兵を全て倒した俺は急いで、光の回復魔法を使える魔法師を探しに行った。
道中、残党の帝国兵たちがいたため、少し時間がかかり結局30分ほどで魔法師を呼んでこれた。
だが、その時にはもう遅かった。
そこに着くと、ヴォルフたちは満足そうな顔をして目を瞑っていた。それはまるでいい夢を見て眠っているようにも見えた。
だが、ヴォルフたちからは魔力を感じなかった。
何かがおかしいと気付いた俺は、ヴォルフに近づき肌に触れる。
その肌は冷たかった。
ヴォルフは死んでいたのだ。
ヴォルフ以外の仲間たちも確認したが、誰一人として息が無い。
みんな死んでいたのだ。
「ごめん、みんな、俺のせいだ……」
俺は涙を流して、号泣をした。こんなに泣いたのはいつぶりだっただろうか……多分、人生で一番の号泣だろう。
「クオン少尉。あなたのせいではありませんよ」
魔法師がそう言って俺を慰めてくれる。だが俺の気持ちは晴れない。
「俺のせいだろう!」
俺が叫んだ。
「もしあなたのせいだったとしても、この人たちはあなたのことをきっと恨んでませんよ。だってこんなに満足そうなのだから……あなたが悔やんだところでもう遅いです……彼らの魂が神の元へいけるように祈りましょう」
俺が悔やんでももう遅いか……確かにそうだ。
何もかもが遅かった。
俺があの場に来るのが遅かったからヴォルフたちはセトの魔法でボロボロになった。
セトを倒すのが遅かったからヴォルフたちに無理をさせた。
『クイック』の応用に気付くのが遅かったからだ。もっと早く引き出せていたらセトを瞬殺出来た。
何よりもっと早く『クイック』を魔法を覚えていれば初めのセトとの戦いで勝てていたかもしれない。
そう、全てが遅かったのだ。
――だったら、もう遅かったと、後悔することがないほどに強くなるしかない。
俺が決意を固めていると、魔法師から声がかかった。
「この人はまだ息があります! 回復魔法を使えば助かるでしょう」
ルーイだった。ルーイだけが助かったのだ。
――――
それから一晩経ったが、ルーイが目を覚ましていない。これも俺のせいだろう。
「これからは後悔しないように強くなろう」
「――良い心がけだね」
俺が昨日のことを思い出して決意表明をしていると、誰かが後ろから話しかけてきた。
「昨日のことは聞いたよ。残念だったね、だけど……後悔して後ろを向いたところで意味はない。後悔した経験を活かして次はどうしたら失敗しないか、考えることが大事だと私は思うね」
そう声をかけてきたのはオーウェン大尉だ。
「そうですよね……ありがとうございます」
「うん、それで君に用事があって来たんだ」
用事といえば昨日の帝国中隊との戦いのことだろう
「昨日のことでしょうか?」
「うん、それもある。それでメラレーン戦線作戦本部について来てくれないか?」
それもある、とういうことは何か他にも用事があるのだろうか。だがそんなことを考えたところで俺に拒否権はない。着いていくしかないだろう。
「わかりました」
俺は作戦本部に向かった。




