21話:その頃の王国軍
王国軍、メラレーン戦線本部、作戦会議室の一室。
「へ? 第四戦線が帝国一個中隊を撃破した? しかも中隊長はあの第10軍の副団長でもあるセトだと?」
クリスがジャックからの報告を受けて、驚いた。
「はい。しかもこちらの軍人の被害はほぼありません」
「俺は無理だと思うが一応、提案しただけだが成功したのか……しかもこちらの被害はほぼ無しと」
「――中将! 私だけじゃなくて、第四戦線にも指示を出したんですか? 何故私に相談をしないのですか……だいたいあなたは適当すぎ――」
クリスの適当さにセレスが怒る。
「――わかってる。わかってるって、ただ第四戦線も優勢だからなんとかやってくれないかなって思っただけでほんとに成し遂げるとは思ってなかったんだよ」
クリスが言い訳をすると、セレスは「はぁ」とため息を吐いた。
「あなたはこのメラレーン戦線の総大将を任せられているのですから、しっかりしてください……ところであのセト率いる中隊をどうやって撃破したのですか?」
セレスがジャックに尋ねる。
「……純白、いえクオン臨時少尉が昨晩、帝国の小隊長5人と中隊長であるセトの首を討ち取りました。それにより混乱した残りの帝国軍を私たちが倒したのです」
「あり得ません。個人でそれだけの武功を……特別級、いや伝説級魔法師レベルでなければ不可能です」
セレスはその報告に驚く。そして自分やクリスなら出来るか?と考えるが無理だと首を振った。
通常の特別級なら別だが、第10魔法戦団副団長であるセトは元々高名な冒険者で元A級だ。同じ特別級とはいえ後衛に徹する軍人たちとは違い、その魔力操作技術で前衛に出ても強い。セレスやクリスでも単独では討ち取ることは不可能だろう。むしろこの戦争にいる王国軍でそれが出来るのは三人ほどだろう。
「わかりました。ではそのクオン少尉を呼んでください。帝国中隊を壊滅させた話を聞くのと、その報酬を与えます」
「かしこまりました……ですが今、クオン少尉は落ち込んでいるので少しの無礼は許してください」
ジャックが心配そうにそう言った。
「何かあったのですか?」
「実は……」その時、作戦会議室のドアが開いた。
「報告です! 帝国軍が戦線を下げてます。何かご指示を……」
1人の軍人が作戦室に入ってきた。
「……ジャック大佐、その話はまた後でしましょう。とりあえず作戦会議を開きます。各戦線の責任者たちを呼んできてください」
セレスが指示を出すと軍人たちは動き出した。完全にセレスの方が総大将のようだろう。それを見てクリスが呟いた。
「……あれ? 俺が仕切らないといけないはずなのに……」
その時、作戦室のドアが開いた。軍人たちみんな他の戦線の責任者を呼びに行ったはずだ。
「こんにちは! いやーいい天気だよね。元気だった?」
そこにいたのは雷のように青白い髪をしたエリザベスだった。
「何故、エリザベス中将がここにいるのですか?」
エリザベス・アルゲール。王国軍の中将であり、若くして雷魔法の伝説級魔法師になった王国きっての天才である。そして神速の一刺しで有名なアルゲール侯爵家の当主である。つまり全距離型の魔法師だ。
「うーん、なんとなく」
「なんとなくで勝手に動かないでください」
セレスがエリザベスに怒る。
「もう、セーちゃんは普段はおしとやかなのに真面目すぎるのが玉に瑕だね。でも怒らないでよ! 冗談だからさ」
「こんな時に冗談を言わないでください。それで何か用件ですか? こちらは今、帝国軍の対応で忙しいので簡潔にお願いします」
セレスはエリザベスにそう急かす。
「もう真面目すぎだよ! でさ、昨日の第四戦線での戦いって誰が作戦考えたかわかる?」
エリザベスはふざけた表情から一転、真剣な表情になってそう言った。
「第四戦線の責任者のジャック大佐ではないのですか?」
「違うよ、実はクオン少尉が作戦考えたんだって」
「クオン少尉が?」
普通は少尉、しかも臨時という最低階級の軍人が作戦を考えたとは思わないだろう。
「うん、そうだよ! だから、どうせ報酬と昨日の話をあとから聞くなら、今のうちに作戦本部に呼んで、これからの作戦のことを考えてもらうのも一緒にしちゃえと思ってさ」
「しかし、作戦本部に臨時少尉を入れるなどと……作戦が外部に漏れたらどうするのですか?」
セレスの心配も確かだ。臨時というこの戦争で軍人になった、どこの骨ともわからない人間を作戦を聞かせるのはデメリットの方が大きいだろう。
「クオンのことはお嬢が責任を取るってだから大丈夫」
「何故、フェール大将が出てくるのですか?」
「うーん、秘密」
セレスはムッとした表情をする。
「冗談はやめてください」
「冗談じゃないよ、これは今回の王国軍の総大将でもあるフェール大将からの命令。余計な詮索はするなだって。あとクオン少尉のことを外部に漏らすなとのことだよ」
エリザベスが感情の読めない顔でそう言った。いつもニコニコしている顔からは想像できないほどだ。セレスは緊張をして喉を鳴らした。
「承知致しました。ではクオン少尉のことも呼ぶことにしましょう」
セレスがそう返すとエリザベスはいつもの表情に戻った。
その時、ゴホンと咳払いが聞こえた。
「あのお二人方、俺の存在忘れてませんかね?」
一応、メラレーン戦線の総大将であるクリスだ。
「あ、すみません。忘れていました」
「あ、居たんだクリス中将! いつも通り冴えない雰囲気してるから気づかなかったよ」
セレスとエリザベスは話に夢中になっていて、クリスの存在に気づかなかったようだ。
「俺って総大将って柄じゃないよな……」
クリスが小さく呟いた。




