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叶わない恋


「ところでお姉ちゃん。せっかく東京に来たんだからどこか観光にでも行こうよ。」


花乃はなんとか明るい方向に持っていこうと、話題を変えた。

少しでも那津が暗くなるのを防ごうと、必死だった。


ーー正直、お姉ちゃんと話してる那津って、ちょっと苦手。


どこか猫をかぶっているというか。

不遜で不敵な那津の方が、那津らしい。


ーーま。そのくらい本気なんだろうな。


那津を見ていると、葉月を好きという気持ちがひしひしと伝わってくる。葉月のことを本当に大切にしているからこそ、優しく見守っているのだ。


「あ。いいわね!思いつきで飛び出して来ちゃったからどこがいいか思いつかないわ……。」


葉月は、那津と花乃の気持ちを知らないのか、嬉しそうにはしゃいでいる。

とても二児の母親には見えない。

若くて優しくて可愛らしい、そんな女性だった。


「じゃあ、買い物行こっか。六本木ヒルズ。」


「いいわね〜。あのクモみたいなオブジェ見たい〜。」


「ええ……あれちょっと怖くない?」


「でも六本木ヒルズって言ったらあのオブジェじゃない。」


 そんな他愛のない話に花を咲かせる。

 そうして葉月を連れて、3人で東京観光へとくりだすのだった。


 電車にのって、六本木ヒルズへと向かう。

 休日の六本木ヒルズは、人が多く賑わっている。

 六本木ヒルズの中にあるお洒落なカフェで、3人はおしゃべりの続きをしていた。


「那津くんは最近どうなの?弁護士の仕事大変でしょ。」


「いえ。なりたい職業だったので。大変ですけど、やっぱり楽しいですよ。」


「偉いね。花乃は仕事どうなの?」


「もう毎日バタバタして大変だよ。」


「葉月さん、こいつ、料理全然ダメなんですけど、それをフォローできる優秀な後輩がいてですね。」


「え。その子すごいわね。かなりエリートじゃない。」


「ちょっと。」


「花乃、よかったわね。貴方、後輩に恵まれてるじゃない。」


「別に料理の会社じゃないから!それに仕事はちゃんとやってるから!」


2人から真顔でじっと見つめてくる。

花乃も必死に無言でそれに対抗していた。

が、それは長くはもたなかった。


「……まあ。その後輩仕事もめちゃできるけど。」


悔しそうに呟く花乃を、葉月も那津もにやにやと笑って見ていた。昔から2人はこうやって花乃をからかってくるのだ。ものすごく息のあった反応に花乃は毎回何も言えなくなる。

 やり返そうとしても、絵に描いたような優等生の葉月と、弁護士にまでなるような優秀な那津に、花乃が敵うはずもなかった。


ーーこのやり取り、懐かしいなあ。


 当たり前だったこのやり取りも、葉月が庚先生と付き合い始めてからはめっきり減ってしまった。


「花乃、葉月さん、俺ちょっと飲み物買ってきますね。」


「いってらっしゃ〜い。」


花乃と葉月は手を振って那津を見送った。

人混みの中に紛れていく那津の背中を見つめていると、周囲の女の子達がチラチラと那津の様子を見ているのがわかる。

那津は気にしていないようで、注文するための列に並んで、スマホをいじっている。


ーー本当にモテるんだなあ。


花乃はこうして那津を見ていると、しみじみそう思った。


「ねえねえ花乃」


前のめりになって葉月が花乃に問いかけた。

その瞳はとても楽しそうで嬉しそうに輝いていた。


「花乃は那津くんのどこが好きなの。」


「え。」


花乃は言葉に詰まってしまった。

相川や吉塚がやって来た時の失敗を活かして那津と綿密に打ち合わせをしたはずなのに、答えが出てこない。


「ええ……とお。」


まずいまずいと、花乃は必死に考えた。もじもじと手混ぜをしていると、ふと自分の指にはまっている指輪に気が付いた。


「手。」


「手?」


「うん。手……かな。」


この『契約指輪』を貰った時、

触れ合ったごつごつした指の感覚が、

何故か忘れられないのだ。


ずっと触っていたい。


そう思ってしまった。


幼い頃からずっと一緒だった那津。


何度だって繋いだことがあるはずの那津の手なのに、あの時の那津の手は、

優しくて、

逞しくて、

花乃の知っている手とは、全く違った。

那津の手に触れた瞬間に、

那津のことを、男として意識してしまった。


でも、那津が葉月のことを好きなのも知っている。


花乃が恋心を自覚すれば、

その恋はすぐに散ってしまうのだ。


それならば、ずっと気付かなくていい。


「いいわね〜。男の人らしさが出るところよね〜。」


葉月はとても楽しそうに話していた。


「私ね、花乃にプレッシャーかけちゃったかな、て思ってた。」


「プレッシャー?」


「私は、涼太くんと恋して若くして結婚したでしょ。だから周囲は花乃にも同じような結婚を望んじゃってるな、て思ったから。」


「それは……。」


嘘ではない。

事実、那津との結婚はそれをカモフラージュするための契約なのだ。

花乃はきゅっと指輪を握りしめた。


「世の中は幸せな結婚ばかりじゃないじゃない?私はたまたま幸せで恵まれた結婚ができたけど、それって本当にラッキーだったと思うし、これからも続くかはわからない。」


そう言い切った葉月の表情は真剣だった。


「私は花乃には幸せになってほしい。だからもし花乃が焦って変な男と結婚してたら、離婚させるために飛んでいくつもりだったの。」


ーー怖い。お姉ちゃん、妙な行動力があるから。


「それはね、那津くんだって例外じゃないのよ。」


「え。」


「早くに結婚した私が言うのも何だけど、結婚はしなくてもいいと思うの。ようはタイミングだと思うし。なんなら花乃の老後はうちの子達に面倒見るようしっかり伝えるし。」


「ありがとう……お姉ちゃん。」


葉月は花乃の頭を優しく撫でた。

その手の温かさが、昔と変わらなくて、じんわりと目頭が熱くなる。


「でも、お姉ちゃん、那津なら安心、て言うと思った。」


「私は花乃を大事にしない旦那なんて例え大統領でも認めないわよ。」


「ふふ。なにそれえ。」


「結婚おめでとう、花乃。」


そう言う葉月を、花乃は見れなかった。


ーーありがとう、お姉ちゃん。


嬉しいよ。

幸せだよ。

心からそう思うよ。


でもね、この仮初の結婚に祝福は似合わないの。


姉の優しさが、花乃の心を掻き乱す。


ーーああ、心から「ありがとう」て言えたらな。






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