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夜襲~火攻の罠~

アウステルリッツ会戦でわざと重要拠点をがら空きにして、敵の移動を限定させたうえで、各個撃破したエピソードがありました。

 払暁、ラングの軍は降伏勧告のような悠長なこともせず、弓兵を前に出して矢を射かけてきた。前線はセタンタが檄を飛ばし防戦を指揮する。敵はその数の有利を生かして前衛を入れ替えて常に新手を繰り出してくる。

「数に任せるしか能のない連中に目にもの見せてやるんだ! 野郎ども、続け!」

「っく、クー・ホリンが相手にいるのか。分が悪い、奴には無理に当たるな!」

「っち、腰抜けどもが。蹴散らすぞ!」

「「おお!」」

 セタンタの戦っているところでは勝っているのだが、それ以外では数に押される。どうしても数が少ないレイル軍のほうが疲労の蓄積が速く、押される時間も長くなりつつあった。何とか持ちこたえている理由はセタンタの勇戦のほか、ジョルジュの狙撃だ。

「続け!」

 檄を飛ばして前に出てくる敵指揮官の額に矢が突き立つ。指揮官の死を見て兵が怖気づく。その光景は何か所でも起こっていた。指揮官クラスが射線に入ると即矢が放たれる。ほかにも数名の狙撃兵が高所を占めており、敵の打ち上げる矢は彼らの元まではほぼ届かない。射撃戦では一方的な展開だった。

「ならば敵の矢以上の数で押し込め。盾兵を前に出すのだ!」

 ラングの指示で重装歩兵が前に出る。矢に倒れる兵も出るが、明らかに射撃の効率が落ちた。やはり数に任せて押し出されると分が悪い。戦いは前庭部分から徐々に押し込まれ、夕刻にはついに正面入り口付近まで押し込まれた。そこではレイル自身が陣頭に立ち、セタンタとマッセナが敵に斬り込んで一進一退の状況が続く。それでも夜半、レイルは撤退の決断を下した。

「頃合いだ、一旦退く。各自散開して逃げよ。集合地点は各自事前に伝えたとおりだ…各自の武運を祈る」

「いたぞ、レイルだ!討ち取れ。褒美は思いのままだぞ!」

「っち、見つかったか」

 数名の兵と切り結び、切り伏せる。レイルの周辺にいる兵も徐々にその数を減らすが必死の反撃で追撃を退ける。フォルディス村までの中間地点に簡単な陣屋が築いてあり、レイルたちはそこに逃げ込んだ。数も散り散りで30ほどしかいない。陣屋の包囲に50ほどの兵が残り。ラングに報告が行ったことだろう。彼は意気揚々とレイルが立て籠もっていた神殿に入り、主力も神殿内部に入れて防備を整えた。


「一応防備を整えるあたりは阿呆ではないな」

「まあ、あほにあれだけの勢力は築けませんよ」

「たまにいるんだ、運だけでのし上がるようなのが」

「まあ、思う壺にはまったことについては…」

「うん、そうだね。じゃあ、手はず通りに」


 兵を一晩休ませて、翌朝レイルが立て籠もる陣屋を落とす。それで勝負が決するはずだった。ラングは焦げ臭いにおいに目を覚ました。

「誰かある、何事だ!?」

「はっ、失火のようです。ただいま消火作業を行わせております」

「なんと、火を出した責任者には処罰を与えよ」

「ははっ!」

 しかし煙は収まる気配を見せない。それどころか火が燃え盛る音がさらに大きく響いてきた。

「これはおかしい、ただの失火ではない」

「状況を確認してまいります!」

「よし、行け!」

 側近の兵が走り出す。そして唐突に倒れた。

「何事だ!」

「よう、ラング閣下。お初にお目にかかる。わが名はクー・ホリン。レイルの盟友だ」

「何、どうやってここまで入り込んだ!?」

「さあてな、今決まっているのは、おめえは俺にここで討たれる、それだけだ」

「く、誰かある!」

「今ごろはみんな消火で手いっぱいのはずさ。何しろ出入り口すべてに火を放ったからな」

「なんだと・・・?」

「じゃあな、会ってすぐで悪いが死んでくれ」

「グハッ・・・」

 セタンタの槍先がラングの胸を貫いた。ティルナノグの覇者といわれていた男のあっけない最後だった。夜襲をかけていたレイルたちにセタンタは合流し、敵兵にラングの死を見せつけた。

「ラングは討ち取った、降伏するものは命は取らぬ。まだ戦うか!」

 レイルの大音声に敵兵は大きく動揺した。ラングの一族で、側近を務めていた男が突進してきたが、一合も交えずにレイルに討たれる。夜陰に紛れてかなりの数が逃げ散ったが、ラングが率いてきた兵の半数近くが投降してきた。


 策としては単純である。レイルたちが立て籠もっていた神殿には事前に物資が集積されていた。燃料も含めて。長く伸ばした導火線を使用した時限発火装置を仕込み、火災を起こして敵を混乱させる。特に大きな出入り口である正面の門には油もまいて派手に燃やす。セタンタとスカサハの火のルーンも活用した。内部の通路も火で分断し、敵兵の動きから敵指揮官の居場所を割り出す。まあ、もしわからなければ神殿内部すべてを焼き払うつもりだったらしい。そうなれば敵とはいえ死者が多くなりすぎる。そういう意味で、ラングを見つけることができたのは僥倖だった。敵兵はわずか100足らずの兵の奇襲とは思わず、大混乱しているうちに指揮官を討たれ、敗走していったのである。

 ちなみにスカサハの考えではこの神殿に立てこもっているうちに調略で後方を切り崩し、補給線を断つというものだった。わざと拠点を明け渡し、拠点に敵兵を閉じ込めてまとめて殲滅するというレイルの策は見事に当たり、一夜にして最大の敵を葬ったのである。


 一夜明けて、ラングの戦死とレイル軍の大勝利は近隣に広まっていた。民兵はすべて降伏を許し、希望者は村に帰ることを許した。帰った兵たちはレイルの強さと、ラングの死を伝える。同時にレイルは自らの領内の税率を彼らに伝え、降れば同じ扱いをすると宣伝させた。10倍の軍を打ち破ったレイルの武名は急速に広がり、圧政を敷いていたラングの勢力圏はあっけないほどに瓦解していった。主力となる兵は先日の戦いで大敗しており、抵抗するだけの戦力がなかったこともある。勢いに乗ったレイルたちは兵を進め、ラングの支配していた8か村をすべて支配下に入れたのだった。

ティルナノグをほぼ平定したレイル。残りの地域の平定を急がず、まずは地盤固めを行っていた。


次回 現状把握と内政

お楽しみに・・・

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