油断大敵
シレジエンへ入城を果たした。周辺地域の平定と、東の砦にオズワルド軍の残党が立て籠もっている。これを掃討しないと周辺の動揺が収まらない。シレジエン自体の兵力もレイルの指揮下に入ったため、兵力の補充は後方からの移送を待つことなく行えた。とはいっても装備、軍制、練度などすり合わせも必要で、すぐに共同作戦を行えるほどではない。後方と周辺の安定に努めてもらうこととして、レイルは兵5000を率いて出陣した。
東の砦に立てこもっているオズワルド軍は3000あまり。だが周辺に潜んでいる可能性もある。レイルは偵察をこまめにだして徐々に進軍していった。
「ジョルジュ、敵兵力の総数はつかめたか?」
「はい、砦の3000は過剰で、実数は2000弱のようです。ただし、近隣の小領主の居館などを占拠しているようで、100単位の小部隊が10か所に分散しています。まとめて叩かないと蠢動されて厄介なことになりかねません」
「後方をゲリラ的に襲われたら面倒だな」
「まずは砦を包囲しましょう。そして後方を遮断するように仕向け、野戦で各個撃破するのがよいかと」
「スカサハ、どのようにする?」
「敵もあほではないようで斥候を放っています。それを逆用するのです。捕らえて捕虜とし、偽情報を与えて逃がします」
「ふむ、ならば、包囲の士気はマッセナに任せよう。敵別動隊を叩くのにシレジエンから騎兵を呼ぶか」
「それがよろしいかと」
「周囲に潜んでいる兵がいないならば、明日の払暁をもって砦前に布陣し、包囲を始める」
「「はっ!」」
マッセナ隊を先陣として砦正面に布陣した。敵軍も1500が出撃してきて、前衛部隊と激突するが、敗残兵で補給もろくに受けていないため長時間の戦闘に耐え切れず、早々に撤退した。降伏すれば本国への帰還を許可すると伝えたが、どうも敗残兵が国に戻ってもよい扱いを受けないようだ。
この戦闘で得た捕虜と、捕らえた密偵に偽情報を仕込み、脱走させた。ご丁寧に敵軍の密偵が決しで忍び込んできたように見せかけて。周辺に分散していた敵兵が徐々に終結をはじめている。まさに思うつぼであった。
一つ想定外の出来事が起きた。1000ほどの数がまとまったあたりで夜襲をかけられたのである。マッセナと部隊を切り離し、さらに包囲のために別動隊を進発させた後のことで、レイル本隊は1000足らずだった。偶然かはわからないが、最もレイル自身の部隊が手薄な時を突くという結果になったのである。
迎撃の体制を整えると同時に別動隊を呼び戻す伝令を出したが、彼らが戻ってくるまではしばらく時間がかかる。レイルは自らの油断を自覚し、戦死を覚悟して剣を構えた。
少数とはいえ騎兵を用意していた敵は、真っ先に突入させた。それにより前衛が分断され、指揮系統が乱れる。ただでさえ夜襲で混乱しているところに最悪の手を打たれた。
レイル自身が前線に立ち、敵兵と切り結ぶ。剣を振るいながら矢継ぎ早に指示を下し、陣列を整える。
「アド、盾兵で方陣を組むんだ。ジョルジュ、弩を中央にまとめて一斉射撃を!」
「「はは!」」
「剣士隊は俺に続け! 陣を整える時間を稼ぐのだ!」
「「おおう!」」
短いが激しい戦いが続く。陣列が整い、騎兵の攻撃を跳ね返す布陣が整い、レイルは方陣と合流する。突進してくる敵兵に一斉に100の弩が発射された。金属鎧を貫通する威力の矢を受け、命中する面の大きい騎兵にまず命中する。そしてその脇を固めていた歩兵にも命中し、陣列に穴が開く。レイルは再び剣士を率いて切り込む。徐々に後方に下がる敵兵を一気に潰走させようと突撃を繰り返したところ、気づいたら敵に包囲されていた。
状況を把握したアドが兵を前進させレイルと合流を図るが、足の遅い盾兵ではなかなか突破できない。ジョルジュ隊も味方に当たることを恐れてなかなか矢を打ち込めない。決め手を欠く状況で焦りが高まる。
救いの手は意外な形でやってきた。白馬にまたがり、ふわふわのドレスを着こんだ少女が切り込んできた。短弓を取り出し矢継ぎ早に放った後、開いた隙間を駆け抜ける。
「レイル様ああああああ!」
大声でレイルの名を呼び、獅子奮迅の武勇を見せる少女。包囲網も混乱し、突破できるスキが見えてきたように見える。
「陛下、お知合いですか?」
「いや、会ったことはない…と思う」
「しかし、見事な腕前ですな」
「そうだな、生きて帰れたら全力で感謝の気持ちを表すよ」
「それがいいと思います」
兵と軽く冗談を言い合える程度には落ち着きを取り戻したレイルは周囲を見渡し、突破するポイントを決める。すると少女も同じポイントを見て取ったのか、そこに突撃を敢行する。
「こちらです、レイル様!」
「ああ、ありがとう」
少女が矢を放ちまた兵が倒れる。そこの隙間に突っ込み、穴を広げる。そこにレイル率いる剣士隊が切り込み、一気に包囲の突破に成功した。レイルは最後尾に駆け戻り、全員が突破するまで敵兵と切り結んでいた。そして、最後尾の兵と肩を並べて一気に離脱したのである。
敵はレイルを補足するチャンスを逃したと判断すると一気に撤退していった。
「ありがとう、おかげで命拾いした」
「いえいえ、旦那様を守るのは妻の務めです」
「え…?」
「あ、初めまして。クリフォード候の妹でフレイアです。不束者ですが、末永くよろしくお願いしますね」
にっこりと笑う少女。そして、見事な足さばきと踏み込みでレイルに抱き着く。
兵たちはその見事な体さばきに感嘆の声を漏らす。あれは只者じゃないとつぶやきが漏れる。そもそも至近距離であったとして、レイルに組打ちを仕掛けるのは至難である。それを抱き着くという結果になったが見事に成し遂げた。素晴らしい技量である。
そこにスカサハ率いる別動隊が戻ってきた。そして指揮官たるスカサハは、少女に抱き着かれているレイルを見て、この世の者とは思えぬ呪詛をつぶやきつつ、レイルを問い詰めるために駆け寄っていくのだった。
フレイアが自己紹介をし、スカサハは矛を収めた。別件でレイルはスカサハに説教を受けている。翌朝、夜襲を指揮していた指揮官が投降してきた。




