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父の言葉

・・・ある意味やっちまったか

 オルレアンを平定したレイル。そこから北上すると、父の第二の故郷ともいうべき、トゥール地方がある。フリード城が滅んだあと、トゥールに残された城館にラーハルトの残党を名乗る者が集まり、勢力を形成していた。

 レイル軍の次の目標はトゥール地方に決定した。


「なんだレイル殿。何をそわそわしている?」

「んー、故郷に帰るってことになると思うんだけど、寝て起きたら100年たってましたって冗談にもなりゃしないとかね。いまさらか」

「ああ、生まれ育った地が滅んでいるとか確かに想像を絶するなあ」

「そうなんだ。正直見るのが怖い」

「うーん、しかしあの地はフリード王国の中心だ。建前上もあの地を支配せねば今後に差し障ると思うが」

「うん、わかってる。まあ、いろいろと複雑なのですよ」

 まだ少年といっていいレイルの肩にはどれほどの重圧が乗っているのか、スカサハにも計り知れない部分があった。だが、こういう気軽な話し方をできる相手も限られており、そのうちの一人であることが誇らしくも思うのだ。

 数日の行軍を経て、トゥールの城館を望む位置まで来た。レイルはフリードの旗幟を掲げさらに進む。すると城館から数名の騎士が現れた。


「レイル様、お待ちしておりました」

「む、おぬしらは?」

「は、フリード城に勤めていた者と、トゥールの騎士の末裔に当たる者です」

「そうか。して、なぜ私とわかる?」

「王の残された絵姿と、その紋章の剣です。言い伝え通りでして」

「なるほど。で、私に何用か?」

「はい、フリード城が滅んだ日、私どもの祖先は王より使命を託されました。いつの日かレイル王子がこの地に戻ると、その時に王のお言葉を伝えよと」

「父の言葉?」

「はい、城館に残されております。王の血をひくものしか開けること能わずと」

 レイルは何か嫌な予感をひしひしと感じていた。おぼろげに残る父の印象は、非常に困った人であったのだ。伝説になっている英雄王の姿と、自身の持つ父親へのイメージがイコールで結びつかないことも多々ある。正直、父の遺言など見たくもないというのが正直なところだった。その感情は、いまだ父がいなくなったということを信じ切れぬ彼自身の弱さの発露だったのかもしれない。


「こちらです」

 騎士に案内され、城館の奥の間に通された。案内された部屋に一人で入る。祭壇があり、そこには文箱ほどの大きさの箱があり、王家の紋章たる狼が刻まれている。レイルが手をかざすと、紋章に刻まれている狼の目が輝き、ひとりでに蓋が浮き上がった。

 箱の中身は空っぽだった。レイルが呆然としていると、蓋の裏側が鏡になっている。そこに自分によく似た、別人の顔が浮かび上がる。それが自分の父だと気づくのに少し時間がかかった。

「よう、レイル。元気でやってるか? 事情を話すと長くなるが、お前はあの晩から100年後の世界に飛ばされているはずだ。その原因だが…まず、フリードが治めていたフェリアース地方だが、長き時を魔法の結界に覆われていた話はしたな? その結界を保持していた魔法機構はすべて止めたはずだったんだ。まさか、隠れ里にもあるとは思ってなかった。で、オズワルドの密偵がそれを見つけて、暴走させちまった」

 あまりの内容にレイルは呆然とする。だが父王の話はまだ確信に至っていない。前置きだけでもいろいろと重すぎた。

「で、このまま放置したらまた結界に閉ざされる、だけならいいほうで、下手をすると世界が滅ぶ。なので、これは仕方なかったんだ。先に謝っておく、すまん」

 唐突に平身低頭を始めた父に戸惑う。いったい何をやらかしてくれやがったのか?

「まず、魔法機構の制御権限はまだ俺に残っていた。で、暴走し始めた機構が新たな世界を発生させていた。その中に入って世界を何らかの形で終結させねばならん。そうそう、密偵の正体はな、オズワルドの王弟アレクサンドルだ。そっちにも同じ名前の奴がいるんじゃないか? そいつの願望が世界を構成している。結局あれだ。英雄になりたかったんだと。そこで、うちのフリードが出てきたもんだから征服すれば手っ取り早く英雄になれると思ったんだろうが、威力偵察に出した部隊がアッつーまに粉砕された。友好条約が結ばれる。戦争は起きない。英雄になれない。ってあたりがやつの心境だったと思われる」

 やたら前置きが長い、こういう時は間違いなく、果てしない厄介ごとが待っている。なぜかレイルはそのことを知っていた。

「奴は失われた技術である魔法に傾倒していた。つっても結界の中では普通に使われていたんだがな。で、なんかの折に見つけた書物で、俺が封印した結界機構について知った…らしい。俺がいじってた時で相当の時間が経っていたんだが、どうもその結界機構を構築したのと同じ世代の書物とかでよくあんなもんを解読したと思うが、フェリアース最奥の隠れ里に結界機構のプロトタイプがあったらしいんだわ、で、それを起動させやがった。ってここまで前置きな」

 やばい、いやな予感が止まらない。というか手遅れな気もすでにしている。すでにあきらめの境地でレイルは父の言葉を待った。

「さて、レイル、お前の今置かれている状況だが、俺は外部から結界の維持と制御をしないとならん。だからお前を中に放り込んだ。舞台設定はアレクサンドルの阿呆が考えた内容ってか願望だ。どうせ古今無双の名将とかって肩書になってなかったか? で、口ほどにもなかっただろう? 最終的には奴を倒せば、おそらくだがこの結界は解ける。というわけで、何とかそれを成し遂げてくれ。お前の体感時間で15年がリミットだ。というか俺がもたん。それを過ぎると結界が外部世界を侵食して、願望と現実が入れ替わる…可能性がある。いろいろと、俺のほうでも設定をいじってお前を支援する。ご都合主義的に状況が動いたときは、支援がうまくいったと思え。お前がこれを見ている時点で、どれだけの時間が残されているかはわからん。だが、お前の活躍に世界の命運がかかっている。我が息子よ。頼むぞ!」


 唐突に映像は途切れた。最後の言葉を吐くときやたらイイ笑顔をしていたのがやたら癇に障る。

「ふざけんじゃねえクソ親父!」

 トゥールの村に響けとばかりにレイルは叫んでいた。

自身の使命を知ったレイルはヤサグレていた。あの部屋で見たものはとても人に言えたもんじゃない。言えば誇大妄想で大笑いされるか遠巻きにされるかだろう。世界がどうなろうと知ったことか!?

次回 使命と現実と夢想と

お楽しみに

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