グラナダ攻防戦
位置関係を逆にしたらこうなった
全土に布告が出された。反逆者討伐令である。対象はレイルとクリフォードで、王国正規軍と諸侯軍、合わせて4万が召集されるらしい。総大将は王弟アレクサンドル、参謀長にレオポルド元帥。王国の双璧と呼ばれる布陣である。
レイルは頭を抱えていた。ロンディニウムとの同盟に従い援軍を呼ぶとしてもいいところ1万強、兵力が圧倒的に足りない。少数で多数を破るというのは非常に耳障りがいいが、戦略の常道はまず相手より有利な兵力を集めることに始まる。その兵を養うだけの兵站を整え、適切に運用することが勝利への王道で、奇襲などは本来苦し紛れでしかない。
勢力圏の最東端のグラナダの地、ここを迎撃点に決め工兵を派遣し防御陣の構築を行っている。逆にここを抜かれれば、迎え撃つべき要害はない。まさに乾坤一擲である。
冬に出された動員令に従って兵力が集結し編成される。5000を一単位として師団とされ、8個師団と、輜重兵1万、総勢5万がオズワルド王都を進発した。王国兵15000、諸侯軍25000の内訳である。隠ぺいする意図もなく、その兵力を見るだけで敵兵は崩壊するような威容を誇っていた。
レイルも動員令を出すが、兵の集まりはあまりよくなかった。むしろ悪い。傭兵も危険度が高いということで報酬のつり上げをしてきている。しかし、ティルナノグを中心に、自警団からの遠征参加を要望するものが多く、以前から訓練を施していた兵から優先に組み込んだ。
援軍がやってきた。クリフォード候自らが8000の兵を率いてきたのである。レイル軍の士気は大きく上がった。同時に、参戦を渋っていた傭兵たちも態度を緩和させ募兵に応じてくれたためなんとか総勢2万をそろえ、グラナダへと進軍した。
「敵の弱点は敢えて言うなら補給線だ。だがそこは理解したうえで、輜重兵1万を動員している。長期戦になれば総動員しているこちらが不利だ」
「方針はどのように?」
「グラナダの堅塁で敵の攻勢を支えつつ、敵の後方を脅かす。補給が続かなくなれば撤退するしかない」
「それまでこちらが持ちこたえることができればですが…」
「敵の弱点はもう一つある」
「クリフォード候、それはいかなる?」
「王国正規軍は総指揮官としっかり命令系統ができているが、諸侯軍はザルだ。あっちを蹴散らせば敵は崩れる」
「なるほど・・・」
レイルがしばし思考の海に浸る。再び目を開いたとき、彼の表情は一変していた。
「砦をおとりに使う。いつぞやラングを嵌めたときの二番煎じだが」
「スカサハ、あのポイントに罠を仕掛けてくれ」
「は、わかりました」
「セタンタ、撃って出て嫌がらせの攻撃を仕掛けてくれ。挑発して深追いをさせるのが目的だ」
「承知!」
「クリフォード候、貴公の部隊は戦場を迂回してもらう。戦場の前にはそこそこ大きめの川が流れていてな。そこの上流に布陣、頃合いを見て川を下り敵を分断してもらいたい」
「承知した、この策が失敗したらわが軍は袋の鼠だな」
「そうはさせんよ。もし失敗したと思われたら単独で撤退してかまわぬさ」
「いや、必ず成功させよう。そのほうが私の未来は明るそうだ」
グラナダの砦は1万程度の兵が収容できる規模であり、レイルは本陣を置いた。川を前にしており、筏などで渡河が可能な幅であり、雪解けの水で若干水量は増えているが何とかなる範囲であると敵将は判断したようだ。
翌日、川の水量は落ち着き渡河は容易に見えた。号令の元、諸侯軍を中心とした前衛部隊15000は前進を始める。城壁に至るまで複数の野戦陣地があり、そこから雨あられのごとく矢が降り注ぐ。セタンタ率いる遊撃隊が現れ攻撃を仕掛け、すっと引く。払暁から始まった戦闘は日が中天に上っても衰えることなく続いた。川に近いいくつかの塁が落とされ、そこを敵が拠点とする。そのまま膠着が続き、日没をもって撤退した。
さらに翌日も攻勢は緩まることはなかった。数の差が現れ、徐々に押し込まれる。出城はすべて落とされ、城壁に迫られた。長梯子をかけられそれを落とす。城門への攻撃を射撃を集中させて撃退する。退く敵を撃って出た遊撃隊が追撃し、さらに出血を強いる。梯子の破壊も同時に行う。
そこから同様の攻防が数日続いた。徐々に砦側の反撃が弱まり、降り注ぐ矢の数も減っている。遊撃隊も負傷者が増え、追撃の回数も減っていた。敵はここで新手を投入してくる。予備になっていた諸侯軍1万を投入してきた。その渡河中に異変は起きた。川の水が急に増水し、押し寄せてきたのである。筏はそこらじゅうでぶつかりひっくり返る。後方の混乱を見て、援軍が来る時を抜いてしまった先陣に動揺が走る。そこをマッセナ率いる傭兵隊が急襲する。今までは表面を薙ぎ払うような攻撃だったのが、陣列内部に浸透し、分断するような動きを見せた。さらに城門が開かれ、レイル率いる本隊が打って出る。押し込まれた敵兵はいまだ水量が多い川に押し込まれ、無数の溺死者を出した。先陣が半壊したのを見て、王弟アレクサンドルは後退を指示する。そのタイミングで急報が入る。物資集積地に襲撃を受け、食料が焼き払われた。実行部隊はリン率いる部隊だが、そこにスカサハが加わっており、ルーン魔術で一気に大きな炎を作り出したのである。
アレクサンドルは手に持っていた采を地面にたたきつけ、エヴルー城砦までの撤退を命じた。撤収し始める部隊にクリフォード率いる新手が追撃をかける。この一連の戦いで、3000以上の死者とその数倍の負傷者を出すことになる。
オズワルドの軍はまだ多数の兵力を残している。エヴルーで補給ができれば体制を整えて再侵攻は可能で、ほぼ根こそぎ動員しているレイルたちの軍は長期戦は不利だった。敵が退かない以上は決着をつける必要がある。レイルは東への進軍の命を下した。
次回 エヴルーの戦い
こうご期待・・・?




