新米王様レイルの一日
季節の変わり目で体調崩しがちです。皆様もご自愛ください。
さて、レイルは今日も書類の山に埋もれる。そもそも文官の育成も中途半端に動き出したため、ものすごく細かい決済までがレイルのもとに上がってきているのが現状だ。そして不正な内容の書類をきっちり見分けているあたり、彼の処理能力の高さを物語っているのだが、自警団の飲み会の計費水増しを見抜いたからと言って現状の緩和に何の寄与も果たさないのが全くむなしい限りだった。
面会希望者も引きも切らず。小規模な傭兵隊長から、そこそこの規模の領主まで、おかげで徐々に国境は前進している。そしてついにというか、やはりというか、大規模な反乱が誘発された。ファフニル地方の独立宣言である。これはレイルの宣言から3か月、オズワルド王国は直前の遠征軍の大敗もあって何ら有効な手を打てずにいたのである。
ロンディニウム候クリフォードは兵を出し、周辺地域を制圧し始めた。もともと有能な武人であったが、ここでその武勇を示すこととなった。手勢5000でオズワルド本国から来た8000の兵と戦い勝利を収めたのである。それにより勢力はファフニル北東部のみであったのが続々と傘下に入る諸侯が増え、その勢力はさらに拡大していた。
「ロンディニウム候から使者が来たと?」
「はい、同盟の申し出のようです」
「国境はどこで?」
「それを取り決めたいと」
「まあ、そうだよな。面会の手配を」
「承知しました。明日で調整しております」
「書簡は?」
「は、ここに」
「わかった」
やたら簡素な会話であるが、ノブナガ公の末裔でノブユキと名乗る若者を部下としていた。言葉は多く語らず、最小限のやり取りで済ますのが家風だという。非常に有能であったので、そのままレイルの秘書官として勤めている。同時に武勇にも優れ、マッセナをうならせたほどの剣士でもある。
翌日、ロンディニウム候の使者ヒューバード卿と謁見の時間がとられた。
「レイル陛下には初めてお目通りいたします。ロンディニウムのヒューバードと申します」
「ああ、使者殿、ご苦労だった。まずは口上を聞こうか」
「は、我がロンディニウム候はフリード王国との同盟を希望しております」
「うむ」
「条件としては、旧ファフニル王国との国境を境に相互不可侵と通商を。関税は基本、お互いになし。また可能であれば攻守同盟にできればと」
「条件はそれでよい。対等の同盟であるな?」
「は、その通りです」
「攻守同盟と、貴国への街道の整備を実施しよう。そちらも同様の対応を求める。各国内の整備は各国の費用で賄う。これでいかがか?」
「街道整備は通商のためということでよろしいか?」
「攻守同盟なれば、迅速に援軍を送る必要もある。むろん地図を公開せよとは言わぬが、その点を踏まえて整備をお願いしたい」
「承知しました。なればこの条件を持ち帰って主に諮ります」
「うむ、よろしく頼む」
執務室に戻ったレイルを待ち構えるのは、今回の同盟で発生した作業に関する書類だった。これは増加分に過ぎない。普段のルーティンワーク分の書類は城壁のように積みあがっている。ノブユキの働きで以前よりは整理されているが、それでも分量はなかなか減らない。そして徐々にたまるストレスは臨界点を超えた。
「うっがあああああああああああああああああ!やってられっか!!!」
「陛下、お気を確かに」
冷静に呼びかけるノブユキの言葉はブチ切れたレイルには届かない。というか、静かな足取りで背後に回り込みその首筋に手刀を叩き込もうとして、躱された。
「なっ!?」
必殺の勢いで叩き込んだ一撃が躱され、一瞬の動揺を見せた。そこを突かれ反撃を受ける。もともとが戦場で鍛え上げられた武勇である。からめ手はすべて織り込んだ上の戦い方をしているため、逆に一撃でノブユキは無力化された。その足でレイルは執務室を後にする。ノブユキは意識を失い直前に、スカサハから預かった笛を吹き鳴らした。
レイルは練兵場に現れた。
「これは陛下、視察は今日のご予定になかったはずですが?」
「ああ、気にするな。ちと体を動かしに来た。ただの気分転換だ」
「は、はあ…?」
レイルは礼服を脱ぐと、木剣で藁束を打ち据え始めた。剣術の基礎訓練であるが、なんというか勢いが違う。基本の型の最後の斬撃でなぜか藁束が真っ二つになる。その光景をぽかんと見る兵たち。木剣で藁束を断ち切る姿に兵は憧憬のまなざしを送る。たまたま新規で入った兵の訓練中であったこともある。
「みたか、陛下の武勇を。おぬしらも鍛錬を積めばあのような離れ業も身に着けることができる。これからも訓練に励むのだ!」
「「「おお!!」」
「ほう、なかなかに頼もしき兵たちよな。よろしい、わたしが特別に稽古をつけてやろう」
「おお、聞いたか! またとない機会である!」
「「はは、ありがとうございます!!」」
剣をもって向き合う兵。レイルも基本の構えを取り、待ち構える。
「いやあああああああ!!」
裂帛の気合とともに剣を打ち込む。レイルも基本の受けで応じる。型通りの連続攻撃。型通りの受け。そして、決めの一撃。レイルは剣を立ててそれを受けたように見えた。兵は剣を振り切利、残心の構えをとる。手元の券には柄しか残っていなかった。レイルが剣を受ける際にわずかな動きでカウンターを合わせ、剣を切り飛ばした。そのことに気付いた兵はその場にへたり込んだ。
「何をへたり込む? お前は戦場で武器を失うことがないといえるのか?」
「は、はっ!?」
「武器を交換しようか。それでもう一度立ち会うとしよう。俺に一撃でも撃ち込めたらお前を昇進させよう」
「わかりました。では、行きます!」
再び立ち合い。相手の武器は柄本しかない短剣未満の状態。そこの優位を信じ打ち込む。だが当たらない。剣筋を見切ってぎりぎりで躱す。焦って大振りになったところで、懐に飛び込まれ、胸の中央に打撃が撃ち込まれた。撃ち込まれたのは左掌打、寸勁を急所に撃ち込まれて見事に戦闘不能になる。
「こんな状態の武器を使うとなぜ思った? いいか、戦場では五体すべてを武器とせよ。剣が折れたら、矢が尽きたら、あらゆる状況を想定せよ。敵は前だけにいるわけではない。囲まれる事も考えよ。よいか!」
「「「はっ!!!」」」
そのままそこにいた100ほどの兵を相手に一人一人指南を施す。指導教官も含め、丁寧にボコボコにしていった。そして存分に体を動かしたレイルは殺気を感じて飛び退る。ノブユキの笛で呼び寄せられた影兵たちである。彼らはレイルを取り押さえようと四方八方から飛び掛かった。最後には縄でぐるぐる巻きにされ執務室に連行される。そんな光景を新兵たちは唖然とした表情で見送るのだった。
そしてレイルを待ち構えるのは額に青筋を浮かべたノブユキとスカサハ。レイルは悲鳴を噛み殺し彼らの説教を受けつつ、書類の決裁を行う。彼の受難はまだ始まったばかりだった。
レイルは急速に地歩を固めつつあった。2か所の反乱の鎮圧失敗に業を煮やした王国はついに大軍の派遣を決定する。
次回 グラナダの戦い
お楽しみに!?




