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Scene.22「ピエロ」

「ユナ、この人はカオリさん。今からちょうど帰るところだったんだけど…偶然だね」


 いい終えた瞬間、あっけにとられる2人。そしてもうひとり、僕の心の中の自分も“すごいな俺”と、冷ややかな視線。

 みんなそろってポカンとした顔でいる中、いち早くカオリは配役を理解。軽く会釈してから僕に肩をぶつけてターミナルを見渡す。明らかな匂わせ仕草に結那は「え、そういう関係なの?」と、次なる言葉を待っている。

 僕は引き上げられたプレッシャーの中、演者をまっとうしようと再び話しはじめる。


「手紙、読んだよ……まあ、LINEにしろ文章だから、直接面と向かってっていうよりはよかったかもしれないけど……いきなりだったから衝撃的だったよ。とにかく」


 途切れそうになりながら何とかつなぎ、短く息を吐く。そして気を許せばとたんに上ずりかねない声で、


「好きな人……もうユナの気持ちは知ってるんだっけ? うまくいくといいね。陰ながら幸せを祈ることにする。じゃあ」


 僕は真っ先に背を向ける。遅れて従ったカオリと歩き出す前に手を上げ、顔だけふり返る。手の甲を見せたバイバイのポーズはまるでドラマのワンシーン。

 結那は何かいいかけたのを飲み込むと、僕に手の平を見せる。

 その間カオリはずっと無言。それでも肩をつけて首をこちら側に傾けるアドリブ。僕はジワジワ込み上げる感情を抑えながら、改札に向かって歩きはじめる。


 さよなら、結那……

 後ろから「待って」と呼び止められることは決してありえない。その1ミクロンの可能性を自ら切ったのだから。でもそれを大いに期待し、心から願っていたとわかったのが、改札を抜けた先の脇でカオリから声をかけられたときだった。


「彼女、もうどこかに行っちゃったよ……?」


 いつからかつないでいた手をふり解き、僕はボヤけた視界を何とかしようと目を擦る。自分でも驚くくらいボロボロ涙が流れはじめる。

 視界は定まらず、壁沿いの空いたところにフラフラ辿り着いてはすわり込み、泣きじゃくる。


 今日家を出て、ここまできたのは他でもない。結那を説得するためだ。それなのに、あろうことか別れを切り出してしまった。

 手紙の仕返しをしたかったわけではない。

 どうして素直に言葉を伝えられなかったのだろう……結末は変わらなかったとしても、心に鉤針が刺さったような感覚。

 横隔膜が痙攣しはじめ、言葉にならない嗚咽を漏らしてうなだれる僕。後悔に加えた情けなさでどうしようもない中、カオリはずっと寄り添ってくれた。


「私、何かいえばよかったかもしれないけど……ごめんなさい」


 カオリはかがみ込み、耳元でささやくように謝る。僕はブンブン首をふり、やはり言葉にならないお礼を返す。

 混みあいだした人の流れ。こんな時間に酔いつぶれたのかと向けられる視線に配慮し、僕を奥のコインロッカーと自販機の間まで移動。


 どれくらい経ったか。30分、1時間……カオリは僕のスマホを奪い取ると、自分のスマホを操作。何やら終えてはスマホを手に持たせる。


「大丈夫。これからいくらだって出会いはあるよ。何なら、私の知りあいでも紹介するよ」


 それが今の僕にしてあげられる精一杯の励ましであるとわかった。それでも僕は悔しさ、情けなさでずっとふてくされていた。

 少しして顔を上げたときにはカオリは目の前を行き交う雑踏の中に紛れてしまっていた。


 →5年後へ


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