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Scene.20「深海」

 長い間、僕はひたすら見守っていた。


 立ち続けたあげく、道行く人からの好奇な視線が向けられはじめる。日はますます傾いては次なる安息へ準備を整えるように慌ただしくなる。そんな空気から逃れるように、僕は脇の小さな公園を促す。すべり台の横のベンチにカオリをすわらせ、僕は周りをあてもなく徘徊。

 10分、20分と過ぎてゆくうち、駅周辺の密集感はさらに変化。せわしなさが薄れてはところどころの建物から温もりある光が灯りだす。どこからともなく晩ご飯のほのかなにおいが風に乗って届く。

 ころあいを装い、僕はカオリに近づきハンカチを手渡す。うつむき続ける顔を覗かずとも何とか力になろうという最低限のフォローであり、次の行動を伺う行為でもあった。

 カオリはボソッと「ごめんなさい……」とつぶやくと、やはり長居は無用と立ち上がり、赤らむ目で笑みを見せる。


「駅はこっちでいい?」


 明らかに無理をしているとわかる豹変ぶりに、僕は再び立ちすくむ。背中を小さくさせながらひとり公園を出てまもなく、駅から歩いてきただろう人と接触。

 うつむいていたカオリが謝ろうと顔を上げては絶句。


「タカシ……」

「どうして……」


 離れたところからでもわかる会話。僕がおそるおそる近づく中で彼、タカシは「どうして」ともう一度いってはカオリの肩に手を置き、訴える。


「話はまだ終わってない……そんなに不安に思わなくていい、大丈夫だっていおうとしたのに」

「だってあんな風に突き放すようにいわれたら、誰だって」


 話が混迷を極め、僕はひとまず彼にカオリといた事情を説明。

 タカシは両手を腰に置き、深呼吸とため息を何度かくり返してから「何だかすごくご迷惑をかけてしまって、すみません」と、一礼。カオリにも同じようにいわせてから腕を取り、駅へ歩き出した。


「俺だって、離れ離れで平気なわけはないよ。たまにすごく寂しいときもある。でもまかされた仕事を放り出すことだってできないのをわかってほしい」


 カオリを責めつつ、カオリを想い、自分の気持ちもしっかり伝え、折りあいを見つけてゆく……僕はぼんやりとそんなことを思い浮かべながら2人を眺め、2人はそんな僕を置き去りに駅に消えてゆく。

 僕は湿ったハンカチにわずかなぬくもりを感じつつポケットにねじ込んだ。

 そして漠然とながら、今できあがったこの想いをどうにかできないかというとんでもない考えを胸に秘め、2人の後を追うように歩き出した。

 

 →2年後へ

 

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