バネと牛馬車他
馬車に板バネを施すようになったのは1750年代からである。
英国王室向けに1762年に作られた馬車、ゴールド・ステート・コーチにも施されている。
同車は8頭立てで重さは4tと王室が保有する馬車の中で最も重く、石畳の上を時速4kmで移動した。
路外機動が前提の野砲は6~8頭立ての馬車牽引が前提の為2t以下を要求されているので、この馬車がいかに重く使い道が限られているかわかる。
サスペンションは勿論板バネを仕込み、歩くのと変わらない速さかつ石畳の上でも乗り心地は悪く、元海軍将校で船乗り王と呼ばれたウィリアム4世(在位1830~1837年)は『荒海を往く船のよう』と述べ、ジョージ6世(在位1936~1952)は第二次世界大戦後、鉄輪にゴム引きを施したが次代のエリザベス前女王は『酷いものです、バネに革を張ってあるだけ』
と評した。
バッキンガム宮殿から戴冠式が行われるウェストミンスター寺院まで5マイル(約8.5km)を2時間以上かけて進むのはさぞやキツかっただろう。
保温性も無く、女王は馬車にクッションだけでなく湯たんぽも持ち込んだという。
戴冠後はパレードを行いながら宮殿に帰還するので行きより遠い。
板バネも14世紀に発明される懸架装置も無い時代の旅は更にキツイ事は想像に難くない。
産業革命が始まるのが1733年からなのでファンタジー世界で大型のばねとゴムタイヤ製造には産業革命を起こすかドワーフと錬金術師に頑張って貰うしかない。
より衝撃吸収に優れたコイルバネは17世紀には存在したが、車両に使用されるのは19世紀以降である。
良質な鋼材を一貫生産可能な釜石製鉄所が稼働する6年前の1880年に国産化した村田銃はコイルバネを作れず、江戸時代からの蓄積と応用が利いた松葉型の板バネとしている。
ファンタジー世界で車両に使えるバネは板バネ一択。
軽トラの横にドミノのように連なる黒い板が板バネである。
武具職人なら対応出来るだろう。
木製車輪の場合乾燥、収縮するとガタつくので魔法がある世界ならゼロ◯使い魔のように車体に固定化魔法を掛けるか、それが無理なら馬への給水も兼ねて水系統の魔法使いか水を生成出来るであろう生活魔法の使い手を旅に同行させる。
四方を海に囲まれた日本で人が振るう鍬やピッケルですら雨が降るか水を吸わせない限り午前中には乾燥で楔が緩んでしまう。
水が切れたら人畜だけでなく荷車もお陀仏になってしまうのだ。
戦国時代の中国で楽毅率いる燕の侵攻を受けた斉では、燕軍の勝利を予期した田単が馬車を補強し難を逃れたが、要部を鉄に換えて水も大量に携行したか川沿いを進んだのだろう。
補強しなかった人々は車軸が折れる等腰へのダメージと恐怖に財産への未練もあって楽毅から逃れる事は出来なかった。
この頃の馬具には鐙も蹄鉄も無い。
2200年以上後の1930年代初頭、田単が逃げ切った地域の近くで熱河作戦を発動した日本軍は蹄鉄の脱落の他、想定以上の乾燥、収縮により九〇式野砲等木製台車が脱輪、破損し機動化の一因となった。
車輪を鉄に換え注油する手もあるが重く、高い。
関東大震災後に日本に進出したフォードが1920年代に日本でノックダウン生産したT型一台で家が二軒買えた。
進出した25年まで木製で鋼製スポークは翌年以降。
現代でもホイールの盗難が起きるので価値が一桁上だった当時では推して知るべしである。
ファンタジー世界に話を戻すとナーロッパの技術、文化水準が中近世である事から蹄鉄は普及済みなので良いとして、魔導具に魔力を充填しなければならない事や、王侯貴族が使う馬車の空調、振動、静音性が他より優れている事に驚く描写がある作品。
ギルドの討伐対象の特定部位確認や荷物持ちのポーターの存在。
一度行った場所に転移出来るか視界内に転移する魔法はゲーム廃人キャラがゲームモチーフの異世界にアバター毎入りこまない限り初期から使えず、使い手より多いであろう寒村に出向くとなればクッション以外にも板バネとゴムタイヤの開発は必須である。
開発費用だけで家が買えるが、腰や馬車の生死に関わる。
参考サイト
バネの歴史
https://www.komurasangyo.co.jp/knowledge/knowledge-trivia/history/
wiki
ゴールド・ステート・コーチ
他エリザベス前女王の馬車エピソードニュース。




