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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
あたしに扮した女の理由 民法第891条
50/92

精神的苦痛は体の大きさには関係ない

「飲まねぇよ、馬鹿。大体お前のどこが怖いんだよ。普通に無害な羊ちゃんじゃねぇか。そんで傷ついて転職か。哀れなやつ。」


 ぶっと傷心の息子の実父が噴出し、傷心の息子は顔を真っ赤にして猛りだした。


「うるせぇよ。羊ってなんだよ!ちょっとは慰めるぐらいしろよ。」


「じゃあ、可愛い無害なポニーちゃん。さぁ、あたしの馬になれ。」


「おまえ!」


「真鍋の戯言に言いくるめられて落ち込んでいる馬鹿な奴なんざ、従順な家畜で十分だ。まぁさ、敢えて真鍋の言い分を全部飲んで組織から去ったのならばね、残った真鍋には実は針の筵だったかもね。お前なりの復讐だったのかな?だってさぁ、今時の結婚式に、退職金を払い込むほどのキャンセル料もないだろ。」


 吉保はヒネくれた目つきを私に一瞬だけ向けて、すぐに私から目を背けた。

 ぱちぱちと拍手を始めた田神充を見れば、彼もいつの間にか椅子にちょこんと座っており、彼は私に「お見事!」と叫んだ。


「キャンセル料がただ同然だったからってね、こいつは退職金も貯金もヘリコプターの免許を取るのに使い果たした馬鹿なんだよ。」


「ちょ、親父、バラすなよ!」


 父親におどけた顔でからかわれて怒る吉保を見つめながら、彼は私の暴露した秘密にもあんなにも打ちひしがれたのだと思い出していた。

 すべての悲しみを背負うような、あのリビングでの彼の姿。

 生活安全課の刑事という職は、彼には辛かったのではないか?


 恐らく彼は真鍋に捨てられた状況を良い事に退職したのだろうが、しかしながら、小者らしく自分の外見についての真鍋の言い分にはしっかり傷ついてもいるのだろう。


 外見が見事だと持て囃されている寛二郎だって、自分の大柄な体が不恰好で人に威圧感を与えると、物凄いコンプレックスを抱いているようなのだ。


「お前らは普通に見た目の良い男なのにね。」


 大きい体が見事で素晴らしいとしか言いようのない男達の自身の無さに、私は彼らが情けないと大きく溜息をつくしか無かった。


「え?」


 私の思わず口から出た言葉に反応した吉保が驚いた顔で私を見上げ、「お前等」に自分も入っていると勘違いした田神の父親の方まで目を輝かせた。

 まぁいいか。

 田神父はやくざ風味を消している時は、寛二郎と吉保よりも造形が整っている男だ。


「びぃちゃん。僕をパパにして。」


「え。」


 私と吉保は同じような「え」に濁点がつく程の声と顔で同時に充を直視し、はっとした顔つきとなった充は、そのふやけた中年男の顔をやくざの親分のような顔に慌てて戻した。

 が、顔を元に戻すと同時に自分が刑事だった事も思い出したようだった。


「まぁまぁ。えぇと、話は戻すけれどね。僕達はこの君の格好をした女が亜紀ではなく真鍋だと最初に思ったんだよ。」


「それで、亜紀だとしてと何度もおっしゃっていたのですね。」


「うん。僕は亜紀さんに会えなかったし、写真も手に入らなかったからね。真鍋君にしか思えなかったんだよ。けれども君は亜紀だと断定した。」

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