婚姻予約有効判決に基づいて
「本当のターゲットは真鍋美雪だと仮定しようか。昨年の冬に補導されたのはびぃちゃんの格好をした亜紀だとしよう。そんな格好をしている所を真鍋に見つかり補導され、おまけに寛二郎君が亜紀を引き取りに来たんだ。真鍋は寛二郎君に近付くために亜紀を脅したりはしなかっただろうか、とね。あるいは、その事実を元に寛二郎君に交際を強要してはいなかっただろうか。」
「せいちゃんは女性に脅されて付き合う男じゃないわ。大体、脅してどうするの。どこにスキャンダルを売るの?週刊誌はスポンサーの金で刷られているのではなくて?」
「お前は可愛い顔で情報なんか操作できると言って、警察に喧嘩を売るんじゃない。」
「いや。確かにビィちゃんの言うとおりだね。そうだ、そうだ。寛二郎君を脅せなければ、誰を脅せるのかな。」
「亜紀そのものか。」
私達三人は自然に姫甘味秋葉原店の停止された映像に目線を移しており、二人の物思いは知らないが、私は物悲しい思いで強盗犯である亜紀の姿を見つめていたせいか、頭に浮かんだそのままを口にしていた。
「あたしには見えないけれど、あたしの服であたしだという、まるで、コスプレみたいね。」
ただし、田神親子からは同時に「あ。」という声が上がったのである。
「どうしたの?」
吉保は自分の口元を押さえて私から目線を避け、充の方は苦虫を噛み潰した顔になって私に向き合ったのである。
「どうしたの?」
「……真鍋は息子の婚約者だったんだよ。」
「だからそれがどうかするの?」
「婚約破棄の原因が真鍋が目鼻を整形した事でね、吉保がどうしても彼女の新しい顔が受け付けられなくて、吉保の瑕疵として慰謝料を払って解消したんだ。」
「顔を変える行為こそ裏切りなんじゃないの?」
「コンプレックスやそれを抱えた婚約者の苦しみも、丸ごと抱えて愛せない俺が矮小で差別主義者なんだそうだ。式場のキャンセル料を俺が払う事で慰謝料に変えてくれたよ。」
「なんだ、その戯言。」
吉保は軽く肩をすくめ、そして、天井のLEDを見上げた。
通常の蛍光灯よりもブルーライトが強いという危険なものなのに。
そんな自虐的な男は再び私に目線を戻すと、自嘲しているかのような微笑を見せた。
「俺はでかくて厳つくて、だろ。怖いって、ね。常に俺にびくびくしていた自分を振り払いたいがための整形だったとも言われたね。きれいになれば俺に対等になれると思ったとまで言われればね、俺が悪いんだって言い分くらい飲むだろう。昨年の冬の話だよ。」
彼は何てことないような口調で告白しながら、近くにあった椅子を自分に引き寄せると、無意識にそこに腰を下ろしている。
なんて、打たれ弱い男なんだろう。




