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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
あたしに扮した女の理由 民法第891条
48/92

過去の告白と現在への禍根

「こんにちは。凄く可愛い子ね。私は亜紀。あなたは何が好きかな?」


「かんちゃん!」


 私の答えに大人達は笑い転げ、口元を押さえて品よく笑う亜紀の左薬指には綺麗なダイヤの指輪が輝いている。


「薬指に指輪をしているってことは、亜紀さんには婚約者がいるのね。」


「この、おませ。」


 笑う寛二郎は私を抱き上げ肩車をした。

 空を飛んだみたいだと大はしゃぎする私を落ちないように支える寛二郎の左手の真ん中では、ダイヤが嵌った太い指輪が輝いていた。


 場面は変わり、ホテルの外で鳴った大きな音に脅えて飛び起きた私は、寛二郎の使う寝室の方へと駆け込んだのである。


「かんちゃん!大きな音がした!かんちゃん!」


 そこには誰もおらず、空っぽの部屋の中では大きなベッドが目を引いた。

 私はベッドに近づくとシーツをさらっとなぞり、そこには寛二郎の温もりもない冷たいだけだと知っただけだ。

 このきれいな状態のベッドに寝ていないどころか、寛二郎が部屋に戻ってもいなかったのだと子供ながら理解をしたのである。


「かんちゃん。」


 しかし、私はそこで泣くだけの生き物では無い。

 独りよがりの私は、捨てられたのではなく、寛二郎が迷子になったのだと自分に言い聞かせて現実を拒否したのだ。

 なぜなら、母に殺されかける度に記憶を何度も閉じ込め続けてきた私には、寛二郎の愛を失ったら生きていけないからである。


 だからきっと、私は私の命綱である迷子の寛二郎を探しに部屋を出て、小賢しい子供の私は、ホテル内では子供一人では見咎められるからと、非常階段から外に出ようとしたのだろう。


 だろうというのは、イギリスでの私の記憶が、寛二郎のベッドの前でお終いだからだ。


 私は階段を踏み外したのか、フロア一階下の非常階段の踊り場で頭から血を流した姿で発見されたのだそうだ。


 私は意識の無いまま日本に連れ帰られ、意識を取り戻したのはその半月後である。

 目を覚ました私の前には、骸骨みたいに痩せてしまった寛二郎の姿があった。

 左手の真ん中の指に指輪の嵌っていない、私のせいで不幸になった寛二郎の姿だ。



 頬に柔らかいものが当たり、私が再び目を開けると、私の目の前には、私を心配する厳つい顔の男達だ。

 若い方は、人好きするはずの顔を眉根を寄せて厳つくさせて、それなのに誰よりも優しい手つきで私の涙を拭いているのだ。

 私は吉保のハンカチを持つ手をそっと押さえ、彼の優しさを私だけに留めて置きたいとなぜか願い、だが、彼らが私に望んでいる物を差し出せばそれで彼の優しさもお終いだとも理解していた。


「加藤亜紀は、多分、七年前にかんちゃんと婚約していた。あたしが彼女の幸せ、かんちゃんのもよね、壊したの。きっと、彼らが二人で逢っている間に私が大怪我したからって彼らは別れたのよ。」


「七年前だろ。何で今更お前を、だよ。それに、馬鹿。子供が怪我したからって婚約破棄する間抜けはいないよ。元々別れたい気持ちを持っていた奴が、これ幸いと乗っかっただけだよ。そういうものなの。この、馬鹿。」


 優しく私の涙を拭いている手の反対の手は、馬鹿と言う度につんと私の額をつついてきたが、思いのほか強い力だったので、私はその度にがくんがくんと顔を逸らされた。


「乱暴!すごい乱暴!ひどい!」


「うるせぇよ。とにかく亜紀が社長と付き合っていて別れたと仮定すると、動機がお前が考える馬鹿な考えによる逆恨みだとしても、どうして今頃って奴だよな。実はお前は凄い幸運の星の下に生まれていて、何度も殺されかけても助かってきていた、とか。どんくさ過ぎて、何度も殺されかけても気付いていなかった、とか。」


「……そんなわけあるか。」


 母のこともあるので、私の反論の声が小さかったのは仕方がないだろう。


「それじゃあ、タイムラグはどうしてだよ。」


「そこで、真鍋か。」


「親父?」

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