第66話 真実を知ろう
「前に、この世界で何があったのか、それを説明しましょう。こちらの世界における火の神を経由して、世界救済士が召喚されました。それに対抗するために、大地と水と風の神を経由してさらに救済士が召喚されました。問題は、救済士を呼んだ理由が大陸の覇権を求めてのことだったことでしょうか」
ミストが、淡々と説明を続けていく。
俺たち三人は、黙ってそれに耳を傾けるだけだ。
「救済士が、火薬と銃を作らせ、金属加工、合金を伝え、新たな戦術、戦略を教え、大きな戦争になりました。
それはもう、大陸全土を巻き込んでの大戦乱です。大勢死にました。大きな傷跡が残りました。
それは、最早、救済の奇跡を起こすどころでは無くなっていました。
そこで、救済士だけで集まり、戦乱を終わらせることで話をまとめました。
致し方なかったとはいえ、私は、私を信じてついてきた兵を犠牲にして、それでできるだけ犠牲を少なくして停戦にまで持ち込みました」
その目からは、悲壮が漂う。
つまり、戦乱を終わらせるために、裏切ったということか。
「ですが、予想外の問題が起き、地の神軽油で召喚された救済士が裏切りました。
結局、さらに犠牲が出る結果となったとだけ言いましょうか。
それでも、私を含めての残りで、彼を封印にまで持ち込みました。
さて、それから、私だけは残り、復興に力を入れ、なおかつ、召喚できる者は各国で一人もしくは人一族だけにまで制限をかけました。
それから、大陸は、時々戦乱が起きましたが、それでも、順調に回復していきました。しかし、いつかは彼の封印が解け、再び戦乱の世の中になる可能性がありました」
それが、何百年という時間になるわけで、たった一人、孤独に生きてきた。
それが、どれほどの苦痛だったのか。
それが、どれほどの孤独だったのか。
想像するのも難しい。
それでも、役割を果たしてきたということか。
「さて、救済士は、雇っている神の化身が存在する異世界にしか行けない。
どれほど優秀な救済士であろうと、どれほど信仰を集めている神であろうと、それだけは絶対のルールです。
ですが、二つ裏道があります。一つは新たな神を造り上げ、新たな信仰を得る方法。ただし、これは、どの神に接続されるか分からず、誰が来るか分からない方法です。フェニックスで提案したのは、保険の意味合いが強いですが」
つまり、今回は、俺が召喚された方法か。
もし、強い奴が来たら、それはそれでよしってことね。
「もう一つは、信仰対象と信仰心を別の世界線から転移させる方法です。
そうすれば、特定の神に雇われた救済士を呼び出すことができます。
そう、封印された彼に対抗する手段としての救済士を呼ぶことができる。
そして、文明の進んだ地域が転移されれば、この世界の文明レベルをスキップで進歩させることができる。こうすることで、封印された彼に対抗しよう。
それが、私達の考えた計画です」
そこで、一度、ミストは言葉を切った。
つまり、救済の奇跡を起こすために、香川県が転移した。
そういうことか。
「どうやった? 相当に難しいと聞いたが?」
「それは私のスキルが解決しました。転移とチャージスキルです。転移の能力を貯めて、一定規模の転移を引き起こしました。
発動に至るまで今までかかってしまいました。
香川の方には申し訳ありませんが、いずれ復活するであろう救済士を倒すにはそれしかありませんでした」
つまり、チャージスキルで三百年分ため込んで一気に使ったってことか。
「香川である理由は?」
「一人、心当たりのある救済士がいました。ですが、その方の信仰対象となる化身が、この世界にはいません。ですから、金比羅、つまり、かつての香川県があった世界線において、まつられている大物主命が化身となっていました。そこで、あの世界線の香川県と人々を転移させました」
「つまり、全て、ヤバい救済士が世界を滅ぼそうとしているから、それに対抗するためってことね。で、その封印対象はこの目の前か」
俺たちがいたのは、小豆島とイフリートの間の海域にある小さな島だった。
問題は、上空三百メートルほどの高さに浮いていて、上陸してみれば、石の棺が真ん中にポツンと置かれていた。
そう、これが、封印された救済士が入っているらしい。
「非常に強い相手です。最悪、世界を滅ぼす可能性があり、雇い主の神もさじを投げてとうの昔にクビにしています」
「どれだけヤバいんだよ」
「恐らく、封印が解けるのはまだ先でしょう。それまでに、大陸と香川をまとめ上げて、この救済士に対抗できるだけの戦力と文明を整えなくてはなりません。そのときが来たら、あなたたちも再び呼ばれるかもしれませんね」
「うどん神の救済士にあんまり期待するな」
だけれども、こういう理由があるから、香川は呼ばれた。
来たるべき戦いに備えてのことだった。
そして、香川を戻すことも難しく、さらに言えば、戻すわけにも行かないって事か。
この世界が滅びれば、別の世界が滅びる可能性もある。
結局、俺が来た意味なんてさっぱりなかった訳だが、いつかまた、来たるべき戦いのためにこの地に舞い戻るかもしれない。
「なら、今は、俺たちは帰るしか無いのかな」
「じゃないのか? 帰ろう。どんな社屋か楽しみだ」
ヴィクトワールがウキウキな様子で言う。
あれ、社屋っていうか民家なんだよなぁ。
言わないでおくか。
どのみち、ようやく帰れるわけだ。
長いようで短い異世界旅行も終わり。




