第65話 ドラゴンを倒そう
俺が、両手の指の間に一本ずつナイフを持って、計八本。
そのナイフに向かって、アレクサンダーが両手から水を出して刀身部分にまとわりつかせていく。水は奔流しながら形を作っていき、最後には一メートルほどの長さの刃になった。
あとは、水をまとったナイフごと、俺の凍る炎で燃やしていくだけ。
そうしてできあがったのは、氷の刃付きのナイフだ。両手にずっしりと重みと冷気が感じられる。
「あれってそういうことか」
ヴィクトワールが、まじまじと氷の刃を眺める。
「ぶっちゃけ、お前対策用に考えて置いたやつ」
「そんなものを人に飛ばす気だったのか? 殺す気か?」
「結局、使わなかったけどね。さて、ヴィクトワール。賢者を回収してくるから、ここで待機してくれ。回収したら、そのままドラゴンを引きつける」
そう言うと、アレクサンダーがヴィクトワールの掴んでいる手を払ってかけだしていった。
賢者がどこにいるのか、いや、いた。オリーブ木の陰に隠れながらドラゴンを伺っている。あちらも異世界救済士なら別にそこまで気を遣う必要も無いかもしれないが、万が一もあるのだろう。
そうこうしているうちに、アレクサンダーが両足から水を噴出させつつ賢者を回収してきたところで、ヴィクトワールが賢者を掴んだ。再度アレクサンダーが水を噴出させつつ、今度はドラゴンに向かっていく。
賢者が、ギョッとした様子でこちらを見る。
「透明化ですか。助かります。戦闘系はあまり得意ではないもので」
「なら、もっと早く回収するべきだったか。すまん」
「いえ、大丈夫です。この程度なら何度も経験してますし。しかし、彼は何を?」
「ドラゴンに陽動を仕掛けている。ついでに火消しかな?」
こちらから見えるアレクサンダーは、意図的に燃える箇所を通りながら水をまきつつ進んでいるようだった。
アレクサンダーのシカゴ・タイプライターから水の弾丸が撃たれはじめ、ドラゴンに命中はしているようだ。
命中はしている。
だが、鱗が固いのか、ダメージはほとんど無いようだ。
本当に、スキルが対人型だよな。
それでも、ドラゴンは、逃げていく中にたった一人立ち向かってくるアレクサンダーに気をとられ、奴に向かって火の玉を吐いていく。
水のシールドを作りながら、ジグザグに逃げてこちらに向かってくる。
火の玉が、水のシールドにぶつかって、水蒸気爆発を引き起こしていく。
まだ、距離があるな。
氷の刀剣は、威力も増すが、重い分、威力を維持できる距離が短い。
もっと、引きつけろ。
もっと、引きつけてこい。
ナイフの柄を燃やし、発射準備をする。
「アイスミサイル? とでも言えばいいのか?」
「何でもいいんじゃないのか?」
「そりゃそうだな」
まぁ、アレクサンダーなりに水使いがいないと使えない技だし。
名前はどうでもいい、役割を果たしてくれればそれでいい。
ドラゴンが、迫ってくる。
意識は、完全にアレクサンダーに向いている。
ドラゴンからしてみれば、鬱陶しい蠅みたいなものなのだろうか。
だが、その蠅に倒されるわけだ。
「いくか」
八本の即席アイスミサイルを手から離す。
火力を上げて、ナイフの柄にまとわりついた炎を巨大化する。
流石に、ナイフ単体よりも重いが、それだけ威力は期待できる。
発射!
八本のアイスミサイルがドラゴンに向かって、かっとんで行く。
突如として飛んできたアイスミサイルに対して、ドラゴンが身を翻してかわす。
翼からの風圧がアイスミサイルの軌道をぶれさせる。
火力を維持して、軌道コントロールもしなきゃならないから、加減が難しい。
それでも、イフリートに向かう道中で、一度は練習しておいたんだ。
避けられたアイスミサイルをターンさせる。
今度は、ドラゴンの背後からアイスミサイルが向かっていく。
一本、二本とドラゴンの翼に突き刺さる。
「やったな」
「まだまだ、これからだ」
ドラゴンの姿勢が崩れ、そのままオリーブ園に落下してく。
落下する間にも、さらにアイスミサイルを突き刺していく。
巨大な音と振動と衝撃とともに、ドラゴンが落下。
そのドラゴンに向かって、残りは四本となったアイスミサイルを突き立てていく。
鱗を弾き、切り裂き、アイスミサイルが刺さって、火力をありったけ上げて、さらに氷の刃が深々と突き刺さっていく。
頭部に一本、胴体に数本、しっぽにも一本。
全てのアイスミサイルが突き刺さった。
傷口から血がジワリとにじみ出て、ドラゴンの口からは大量の血が噴き出される。
「やりますね」
ミストからの賞賛が聞こえてくるが、まだ、ドラゴンは動きをやめない。
「とどめ行くぞ」
横に、アレクサンダーが戻ってきて、空中に巨大な水の槍を出現させる。
アイスミサイルの炎をかき消し、同時に水の槍を凍てつかせて、ただの氷の槍であるが、それが空中に出現した。
「これで終わらせるか」
氷の槍が多少溶けるのは気にせず、柄から最大の炎を噴出させて、飛ばす。
氷の槍が空を切り裂き、すさまじいスピードでドラゴンに迫っていく。
何を思っているのかも分からない眼で、ドラゴンは氷の槍を見つめ、そして、突き刺された。
衝撃で、ドラゴンの巨体が一度大きくはねた。口からさらに大量の血を吐き出して、バタンと頭を地面にぶつける。
それから、ドラゴンの巨体は動かなくなった。
「終わりか」
「油断するなよ? 僕は消火してくる」
アレクサンダーがそう言って、あちこち燃えているオリーブの木の消火に向かっていった。
終わったところで、ヴィクトワールが俺から手を離す。透明化と消音もやめたのだろう。
「さて、あいつが、戻ったら、続き頼む」
「ええ。説明しないといけませんね」
ミストが、落ち着いた様子で言った。
本当にどこまで何を知っているのか、それがようやく明らかになるらしい。




