第48話 準備をしよう
巫女と話した次の日、朝から俺とアレクサンダー・ワトソン、いい加減にフルネーム読みは長ったらしいな。かといって、やぁアレックスなんてなれ合う気もしない。アレクサンダーでいいか。アレクサンダーと俺は、市場で買い物をしていた。ウールの簡単な構造の上着にポンチョのような形のマントを購入。金の出所は、藤崎のおっさんが投げてきた金だ。自分のものにする気が中々しないのだが、どうせならこういった場所でパッと使うのも一興だろうか。いや、旅費の分は残しておくべきだろうが。
「アレクサンダー、もう一度確認するが、お前、どこまでつきあう? イフリートまで行ったら、お前ももう帰って良いんだろ?」
アレクサンダー・ワトソンは、スーツの上にマントを羽織っただけだったが、遠目から見れば十分に現地人風だろう。
「そうだな。君と同じで、召喚された目的自体を僕自身が果たしていない。このままでは帰れない」
「自分で大活躍とか言っておいて、やっぱり、気にしているのかよ」
「それはそうだ。僕たちは、目的を果たすために召喚されるんだ。目的を果たせないなら、せめてその代わりの手柄が欲しい」
「ふーん」
単なるお人好しに見えてくるが、それなりに目的があって、目的のために行動すると。
それなら、いいか。これが、力を振るうために同行するなら、なんとなく嫌だし。
そう会話していると、スマホが鳴る。相手はポンコツだった。なんか久しぶり感じるな。
「なんだ?」
「私メリーさん、今、コタツでミカンを食べているの」
「絶対にその場から動かないだろ。それ」
「うーん、極楽極楽」
スマホから聞こえる声は、完全に蕩けきっていた。本当にコタツに入ってミカンを食べているなこいつ。
「つーか、お前、前に回復系のアプリは勧めなかったな?」
「あーあー聞こえない」
「聞けよ」
「でも、どっちみち、高くて買えなかったし。お給料が入ったら、おすすめを言います」
「今更だな」
本当に今更過ぎる。一歩間違えれば腕を失っていたわけで。いや、腕を失ったのはアプリ関係なく俺の無謀の所為か。
「それよりも、そっちの神話で気になることあってさ」
「なんだよ?」
地の神が三柱に挑んだというあの神話か。
「その世界線における信仰ってぶっちゃけ、微々たるものなのよ。いや、うちみたいなベンチャーだと貴重だけど」
「零細な」
聞こえが言いベンチャーって言い換えているんじゃない。
「零細って言うんじゃありません! でね、神域で地の神に該当する神を調べているんだけど」
「どうした?」
「実は……まだ、見つかってない!」
堂々と言い放つ。なんだよ、見つかってないのか。いや、勝手に動いて報告してくる分には構わないが。
「でも、見つからないってことは、相手も同じベンチャーって可能性があるわけで」
「だろうな。あと零細な?」
「そう考えると、この世界で地の神を復権させて信仰心を拡大しようという動きをする可能性も十分にあってね。って言うか、その神話もそもそもが、縄張り争いが引き金だと思うし」
「要は、救済の奇蹟とやらで信仰心を上げるよりも、手っ取り早く、他の信仰対象を消そうって発想か?」
「そういうこと。褒められた行動じゃないけど、やりようによっては効率はグッドでね。ただ、神と救済士同士の争いで世界が滅んだら元も子もないので」
「洪水起こさせるアプリを勧めてきた割によく言うな?」
「あれもジョークだから、半分」
半分……。つまり、使われて世界ごと滅んだケースも存在すると……。
こんなしょーもない争いで世界が滅ぶなら、嫌すぎるな。
「まぁ、だから、他の救済士とバトルならそれはそれでいいけど、ほどほどに。あんまり争ってこっち側でも対立するとか面倒だから嫌だし」
「面倒ってお前……」
会話もそこそこに通話を切った。
「よくかかってくるな? そちらの雇い主は暇なのか?」
アレクサンダーが言った。
「らしい。コタツでミカンを食っていやがる」
「そうか。ところで」
途中で言葉を切る。そして、通りに面した店を指さした。
「昼はどちらにする?」
指さされた方向には、うどん屋が三軒並んで建っていた。
「もう、どれでもいいわ」
いい加減に完全に食事事情に関してはあきらめきっていた。




