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第33話 移動しよう

再び麦畑が広がっていて、時々、人が手作業をしている。確かに、よくよく見ると若い人が多いようにも思える。農業の高齢化が問題となっていて、異世界に行ってようやく担い手が現れるというのも皮肉な話だ。

 しかし、フェニックスで情報収集したときは、もっと焦臭いことになっていると推測したが、思った以上にまともといえばまともだったな。あの知事の統治が良いってことだろうか。

 さて、俺がこの世界に呼ばれたのは、フェニックスが召喚したから。全く意味のないおつかいをしにやってきた。

 アレクサンダー・ワトソンが呼ばれたのは、サラマンドラを討伐するため。

 藤崎のおっさんが呼ばれたのは、無数の声にならない助けに応えるため。

 うん、俺だけ、理由が酷いな。

 だが、そもそも、何故この世界に、香川県が召喚されたのか。

 日本全部でもなく、四国全部でもなく、極限られた地域だけでもなく、何故、召喚されたのか。その理由はまだ、わからないままだ。都道府県単位で転移したというのは、どこか人為的なものを感じるが、フェニックスの人間も、香川県の知事も、誰も召喚された理由を知らない。

 ある日、突然呼び出されて、今に至るだけだ。

 しかし、事態の始まりは香川県の転移だろう。


「おっさん」


 俺は、前でバイクを運転する藤崎のおっさんに声を掛けた。


「なんだ? さぬきまではもう少しかかるぞ?」

「そうじゃなくてさ、何で香川県が転移したわけ?」

「それか」


 藤崎のおっさんの顔は見えないが、何か考え込んでいるようだ。


「俺も、あちこちを回って、話を聞いてきたが、何もわからなかった」

「不自然な事とかもないわけ?」

「不自然か。日常を取り戻せていない以上、自然なことなんてないさ。毎日が非日常だ」


 そうかもしれない。

 突然の出来事で、将来が変わってしまった人々も大勢いるだろうし。

 もしも、今、転移された香川が元の世界に戻れるとして、戻れるのだろうか。

 いや、人が転移することがあり得る以上、理屈の上では戻れるのではないだろうか。

 戻り方が判らないが。


「藤崎のおっさん。香川県を元の世界に戻す方法ってあるのか?」

「さて……どうだろうな。確かに、今のこの状況は不自然であるし、戻るべきだろう。だが、こんな大規模転移なんてまず、不可能に近いな」

「人だけ転移とかは?」

「異世界救済士は特殊でな。どういえばいいか、基準点が神域に固定されていると言えばいいか、そのおかげで戻ることが出来る。普通の人間は、できないこともないが、難しいな。それに、仮にできたとしても、香川県の人口100万人を転移させるなんてことも難しいだろうな」


 とあえて戻らないおっさんが言葉を続ける。なるほど、一度死んで活動している点から言えば、特殊は特殊か。


「俺も雇い主の神に相談したが、転移の原因も不明である以上、戻し方もわからんだろうな」

「ふーむ。ちと、こっちの雇い主にも聞いてみる」


 とスマホを取り出して、唯一の連絡先、カトリーヌ・大塚に電話をする。


「ヤッホー、どうしたの?」

「また、ワイドショーでこっち見てなかったな」

「見なくても大丈夫でしょ? もう、戻るだけだし、何も起きないって!」


 何かが起きそうな不吉なフラグを立てるポンコツだった。


「それより、香川を元の世界線に戻す方法ってないのか?」

「うーん。一応ね、私も調べてみたけど、相当に格の高い神なら可能性はあるかな?」

「あるのか」


 意外だった。神が力を振るえば、香川は元の世界に戻ることが、いや、できないのか。


「直接の干渉はできないか」


 確かに、神が直接世界に関与できないと説明した気がする。


「そういうこと。ある意味、異世界救済士の派遣自体もギリギリだし」

「なにが何に対してギリギリなんだ?」

「世界のバランスを保つこと。特定の世界に関与しすぎるのも良くないってこと。要は、私も異世界救済士も、あらゆる世界において、一種の異質な存在であることは変わらないし」

「自然の状態が崩れると? だったら、派遣自体するべきじゃないだろ?」

「うーん。そこは、説明しずらいな。なにせ、大昔からそうって決まっているし、大抵、ろくな事にならなかったりするし。あくまでも、世界が滅びないようにするために動いているわけですよ。いい、重要な話をするよ?」


 意外にも随分と、真面目な口調になる。本当に、これ、何かが起こるフラグじゃないだろうか。


「世界は無数に存在しているわけ。それはいい? 私達の神域も、厳密には無数に存在する世界の一つに過ぎない。そして、世界は独立して存在しているわけじゃない。世界は世界と互いに影響し合っている。故に、一つの世界が滅びることで、別の世界に影響が及ぶこともあるわけ。最悪、連鎖反応で滅ぶこともある」


 空想科学上のパラレルワールドが当たり前なわけか。


「連帯しているのかよ」

「そういうこと。つまり、異世界救済士っていうのは、その名の通りに世界が滅ぶのを食い止める役割なの」

「俺の役割は、うどんに関するおつかいだったが」

「そういうこともあるよ」


 あって、ほしくないのだが。


「でもね、多分だけど、香川県が転移したのは理由があるはずだよ。きっと、その世界が元の世界に何かしらの影響を与えた結果、転移が起きたって考えるのが妥当よ?」

「世界が香川県を召喚したって事か? ピンポイント過ぎるだろ」

「それもそうだねー。まぁ、いいじゃん、どうしようも出来ないことまでどうにかしようなんて無理しても仕方ないし、大人しくもどっておいで」


 そして、電話が切れた。

 確かに、大人しく戻る予定だし、戻ってどうするか。

 異世界救済士を続けるのか。それとも、やめるのか。やめたらどうなるのだろう。

 もしかして、無職?

 ニート?


「何も判らなかったみたいだな」


 藤崎のおっさんが、当然のことながら、前を向いたまま言った。


「まぁね」

「だがな、多分だが、俺もこう思っている」

「何?」


 藤崎のおっさんは、すぐには応えなかった。そして、しばらく間を置いて一言。


「俺達にも、世界にも、きっと理由があって成り立っている」


 理由ね。

 一体全体、どういう理由なんだか。

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